甘い地獄

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病院に戻ると、ナースステーションから栞さんの病室に案内された。 難病指定とされている病気を持つ彼女は、個室へと案内されていた。 「桐嶋 栞」 部屋のネームプレートに書かれている彼女の名前は、管理会社で聞いたとおりの名前だった。 点滴に繋がれ、ベッドに横たわる彼女は眠っていた。 起こさないように、持ってきた荷物をそっと引き出しの中へと移動させていくと、少しだけ声を発したので顔色を伺うと、僕に気づいたようだった。 「京一くん・・・」 「栞さん」 細々しい声で僕に視線を向ける。 「ごめんね・・・また迷惑かけちゃった」 「もっと早く連れてくるべきだった。謝るのは僕のほうです、栞さん」 「あ、名前・・・そっか、ばれちゃったね名前」 ははっ、とその時初めて栞さんは僕の前で笑った。 自分の死期を改めて実感したのは彼女も一緒で、抱えてきた孤独から開放される安堵感がそうさせたのだろう。 こんなにも切ない笑顔は初めてだった。 「無理しないで、今日はもう寝てください」 「ありがとう」 そう言って病室を出た後、僕はナースステーションへ向かった。 「桐嶋さんの件なんですが」 「はい?」 「ご親族に連絡してあげてください。僕が知るのは、旦那さんの職場だけですが・・・ここから身元を辿れるはずです」 「あぁ、ありがとうございます。でも、貴方は?」 「僕はただの隣人です。では、失礼します」 そう言って僕は病院を後にした。
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