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「いただきます」
沈黙に負けないよう、何か会話のきっかけになればとテレビをつけた。自分の部屋のように勝手に扱ってしまったが、リンさんは何も言わなかった。
「美味しいですか?」
「ええ・・」
相変わらずの返事だ。
だが、それでいい。
この状況だけでもだいぶイレギュラーなのだから。
よくみると彼女の腕には注射跡が何箇所かあった。投薬の跡だろうか。
今日の姿を見て、病気を患っていることになんの疑いもなく考えるようになっていた。
テレビではニュース番組が流行り風邪の報道をしている。
新型のウイルスで、感染被害が深刻だと語る中、身近にいるリンさんの病状のほうが気になってしょうがなかった。
流行り風邪・・・なわけないしな。
あっという間に食事を終え、洗い物を始める。
こだわりもなさそうな食器たち、引越しの際に買い集めたのだろうか。統一感の無いチョイスで、大きさもバラバラだ。一人で使うことを想定した食器たち。同じものはあまりない。
ますます謎は深まるばかりだ。
蛇口を閉め、軽く身支度をしていると、リンさんがこちらを向いた。
「帰るの?」
「はい、帰ります。ゆっくり休んでください」
「そう・・・」
寂しそうに見えたのは気のせいかもしれないが、今回は引き止められなかったので、言葉通り僕は自宅へ戻った。
帰宅するや否や、僕は改めて彼女を苦しめている病気はなんなのか改めて調べる必要があった。飲んでいた薬は貧血を抑える薬だったが、腕にあった注射跡は確実に投薬の跡だ。
今までに知りえた知識を元に、調べを進めてみるといくつかあるうちの病名がぴたりと当てはまった。
「骨髄異型性症候群・・・」
難病指定とされている病のひとつ。
簡単に言えば、血液が正常に作れなくなる病気だ。貧血はそこからくるものの自覚症状のひとつで、完治にはリスクの高い骨髄移植と抗がん剤治療が必要となる。
食欲不振も進行していれば、余命宣告をされていてもおかしくは無い。
あの状態を見れば長くみても1年・・・
もしこれが事実だとしたら、謎にも合点がいく。
人と関わることを避け、
家族とも疎遠の状態を貫き、
一人で細々と死にゆく道を選んだのではないか。
きっと家族はこの事実を知らない。
そして・・・
僕は彼女と出逢ったあの日がもし余命宣告をされた日であれば・・・
彼女が生きられる時間はかなり限られている。
どうすればいいんだ、俺。
僕に何ができる。
他人も同然な僕がすべきことは一体・・・。
考えがまとまらないまま、いつの間にか夜は更けていった。
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