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【出産おめでとう、栞!】
そう綴られていた投稿には、栞さんと生まれたばかりのゆずちゃん、そして旦那さんと見られる三人の写真とともに同級生らしき人たちが写っていた。
投稿日は今から4年ほど前。
今年ゆずちゃんは4歳を迎えるみたいだ。
この4年の間に何があったのだろうか・・・
いくつか投稿を見てみたが、それ以上に得られる手がかりはなさそうだった。
栞さんは少なくとも自分の病を隠している。僕へはもちろん、家族にも。
なるべく彼女の意向に沿える形で解決させたい。
が、時間が思っている以上に少ない。
せめて、生きている間になんとしてでも家族との再会を実現させてあげたい。そう思う僕は、お節介なのだろうか。
写真の投稿者、泉さんと連絡がとれたのはそこから3日ほど経ってからだった。
とりあえず、栞さんに知られることがないよう、家から何駅か離れた駅前のカフェで落ち合うことになった。
「急にお呼びたてしてすみません。」
「いいえ、ところで貴方は?」
「説明するのが難しいんですが・・・簡単に言えば栞さんの知り合いです」
「はぁ、」
どう説明すれば怪しまれないか、色々と探れば探るほどに逆効果な気がしてしまう。素直な性格上、嘘を貫けるほど器用な人間ではないのだ。
「今、栞さんのご家族はどちらに」
「あぁ・・・去年かな、今年だったけな、離婚したのよ」
「えっ」
「ゆずちゃんもまだ小さいのに、突然栞が離婚を切り出したとかなんとかで。で、ゆずちゃんも旦那さんに。駆け落ちでもしたんじゃないかって言われてたけど、何、栞元気にしてるの?あ、貴方もしかして」
「ち、違いますよ!僕はただの・・・世話焼きな知り合いです」
まさか離婚まで進んでいただなんて、予想を上回る情報だった。
自分の死を見せないために、家族を遠ざけたんだ。
優しすぎるよ、栞さん。
でも、その優しさは残酷すぎる。
きっとこの世から去った後、拭い切れない後悔を家族は抱えるに違いない。愛する人の死に際に立ち会えないことほど、辛いことはない。
「旦那さんとお子さんは今、どうされていますか」
「ん~今流行り風邪で休園になったりして大変なんじゃない?私は栞が離婚したって聞いてからあんまり関わりなくなっちゃったし。」
「そうですか・・・」
「旦那さんの職場なら知ってるよ。場所はね・・・」
有力な手がかりを得て、一旦僕は家へ戻った。泉さんには感謝しかない。
だけど、いきなり旦那さんに話をしたところで僕に何ができるんだ。
関係性を怪しまれて、もっと疎遠になってしまったら困る。
とりあえず、今できることは栞さんを病院に連れて行って、なんとか入院治療を始めてもらえないか交渉することだ。
一筋縄ではいかない彼女のことだ。
きちんと計画は入念に考えておかなければ。
できるだけ、時間を無駄にしないように。
今日は徹夜だ。
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