甘い地獄

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それから僕らは貪るようにお互いを求め合った。 ソファからゆっくりと、リビングのラグが引かれた床へ誘導した。 なるべく無理をさせまいと、僕が率先して。 そして、この事実がすべて僕のせいだと片付けられるように。 ひとつひとつのキスに、栞さんは体をよじらせながら声をあげた。 その姿があまりにも可愛くて、更に気持ちは盛り上がる。 「名前・・・」 「ん・・・?」 「教えて・・・」 「京一・・・」 とろけた瞳でそう聞けば、更に求めるように何度も僕の名を呼んだ。 その度に高まる思いに激しさは増し、栞さんは声を上げ、背中につめを立てる勢いで僕を捕まえた。 何度も唇を重ね、交じり合う吐息は熱く、滲んだ汗とあふれ出るものが互いのものと交じり合った。 燃え上がった熱が、二人を甘い甘い地獄へと誘っていった。 「京一・・・京一・・・」 耳の中でリフレインするほどに、栞さんは僕の名を何度も繰り返していた。 ・・・ ・・・ 栞さんは病人だ。 病人だというのに、僕は体を重ねてしまった。 弱みに付け込んだと言われても、しょうがない。言い逃れもできないし、 もう後戻りはできない。 このまま距離を置くか、より近くに身を置くか。 選択肢は一個しかなかった。 力を使い果たし眠ってしまった栞さんをベッドへ連れて行き、僕はベランダへ出た。ポケットからタバコを一本取り出し、ライターで火をつける。一度、冷静になる時間がほしかった。 もしこのまま曖昧な関係を続けるなら、僕は悪者になるべくその役目を全うしなければいけない。 今の僕に言えた事ではないが、彼女には今も大切に思う家族のもとで幸せになる必要がある。看取るべき存在は、僕ではない。わかっている。 だが、僕に本当にできるのか。 今までの自分の中になかったようなことが僕に務まるのだろうか。 いや、やるしかないんだ。 僕に化せられた使命は、きっとこれだ。 栞さんの人生に、僕の記憶はなるべく残さないほうがいい。 忘れられるような出来事を残すんだ。 綺麗な思い出ではなく、記憶から消し去りたいと思うほどの悲劇を。 悪者を演じ切り、忘れられていく存在が僕にはちょうどいい。 本来の幸せを取り戻すのがきっと僕に与えられた使命だ。 栞さんを思う気持ちに、誠意を表す方法はこれしかない。
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