1.我慢の時間

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1.我慢の時間

博美(ひろみ)ーおはよう。もう時間でしょ?」 「・・・うん。おはよう お母さん」  寒い・・・ちょっとだけ明るい・・・ってことは寝坊はしてない・・・よかった・・・  今日も右耳のイヤホンだけ外れてる。  正直 お母さんには目覚まし時計より早く起こさないでほしい。  目覚ましに緊張して早く起きてるのに 起き上がらないのは私だけど  遅れて今 目覚ましが鳴った。 「あれ、お父さんは?もう仕事行ったの?」 「なんか電車乗る前に散歩するんだって。ちょっと前に出たよ」友達みたいな口調で教えられた。  お父さんが早く家を出るのは昔からのこと。  でも最近は特に、誰かを避けるみたいに早めに出てる。  もしかして私を避けてるのかな。まだ反抗期じゃないのに。一応。 「博美ー。今日もパンだけでいいよね?」 「うんいい。お腹いっぱいにさえなれば」  お母さん側から『パンだけでいいよね』って言われると、お母さんの願望が見え隠れする。  そうなると、よっぽどの意思を固めてからじゃないと『ごめん今日は・・・』なんて言えない。  十七歳にもなって上手く料理できない私が『今日は料理して』なんて言えないから、今日も菓子パン2つ。  ちょっと多いけど、残すと”抗議感”が出ちゃうからから食べきった。  昼ご飯用にギトギトしてない菓子パン1つをバッグに入れて ついでに教科書の並びも授業の順番通りにして、制服を着て、丁度三十分くらい。  何年か前のテレビの情報に従って 食後三十分待ってから歯を磨いて、もう家を出る時間かな。 「よし、行ってきます。お母さん鍵よろしく」 「はいはい行ってらっしゃい。スマホ充電した?」 「うん。ていうか充電しなくても足りるよ」 ◆  電車一本分早く家を出たから ゆっくり歩いても一限目に間に合うけど、自分の歩行速度が分かってないから ついつい早歩きになる。  早歩きと言っても、靴底を庇って足音が鳴らないようにしてるから速いワケじゃない。  ただふくらはぎで吸う衝撃がちょっと小刻みになってるだけ。  駅に着くまでに脚がパンパンになった。  パンパンのまま止まらずに改札を抜けて、黄色い線から離れた。  どう間違えても順番待ちの先頭にならない位置で、電車を待つ。  足を止めた途端に ふくらはぎが軋むように痛い。  走る前の短距離走選手みたいに足首をぐりぐりしても、ふくらはぎに効く感じはしない。  でも、ぐりぐりしないよりかはマシかな。  棒みたいになった脚をギシギシと、ギシギシギシギシと。  アナウンスが流れてきた。「黄色いの内側まで・・・」って。  言われてみれば、目が見えない人には「黄色」だ「線」だって呼びかけてもアナウンスにならないか。  行き届いてる、いや行き届いてきたって表現の方が落ち着く。
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