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第十章 I saw him standing there
望は思いつめたような顔でため息をつくカイトくんを
じっと見つめている。
改札の手前まで来て、彼がその向こうに見えた瞬間に
望は自分の胸が高鳴りだすのを感じた。
もうアキヒトには感じない種類のときめきだった。
何か言いたげにしている彼は、
3つ年下には見えない。
高校生だけど、もう立派な男の人に見えた。
見つめていると、彼の顔の口元にほくろを発見する。
アキヒトそっくりの彼だが、そこだけは似ていなかった。
「ねえカイトくん、何か話があるんじゃないの?」
望は目を細めながら、カフェラテに口をつける。
新幹線の中でもコーヒーを飲んだし、
もうお腹一杯だったが、何か飲まないと間が持たない。
ほくろのせいでカイトくんの口元は、とてもセクシーに見えた。
”あのホクロにキスしたら、彼はどんな顔をするんだろう?“
そんな事を考えて、望は一人で赤くなる。
彼はそんな彼女の気持ちなど知らずに、黙り込んだままだ。
すると彼女は、カイトくんの手のひらを
両手でそっと包み込んだ。
彼の手は少し汗ばんでいる。
カイトくんが驚いた表情で顔を上げる。
望が笑顔になると、真っ赤になった。
「・・・・・・望さん?」
「髪切ったの。どう?」
「あの、すげえ似合ってます。」
心なしか汗の量が増えた気がして、望はくすっと笑った。
「少しは可愛くなったかな?」
「望さんは坊主にしても可愛いです。」
力の入れすぎで声が大きくなったのが恥ずかしくなったのか
最後のほうは小声になる。
「ありがとう、カイトくんに褒めてもらえるとうれしいよ。」
「あの、兄さんに会ってきたんですよね?」
ようやく本題に入ったようで、彼は真剣な顔になった。
「うん、会って来たよ。」
望は彼の緊張をほぐすように微笑むと言った。
「髪はハルカさんに切ってもらったけどね。」
「え?」
「さすがだよね、あんな大きな店で副店長やってるだけあって
上手いよね。」
「・・・・・・はあ。」
「夜はね、ハルカさんの家に行って、三人でたこ焼きパーティしたの。
泊めてもらっちゃった。お洒落なマンションだったよ。」
上の空の相づちと、コロコロ変わる彼の顔色に
違和感を覚えながらも
望はカイトくんに大阪の話を始めだした。
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