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第一章
「お名前は?」
「逆巻苺楼です。」
異常はないですねと医者は私の父らしき人に言った。
「記憶はそのうち戻るでしょう。勉強など日常生活での心配はいりません。」
「そうですか。」
後にわかったのだが、私の父らしき人は本当に父で不動産会社の社長らしい。で、私は社長令嬢というわけだ。
覚えてない。人に関しては誰も覚えていなかった。
覚えていることは私は逆巻苺楼だという事。高校1年生だという事。幼なじみ3人の親友1人だという事だけだった。
「いや〜よかったよ。苺楼が無事で。今夜は久しぶりによく眠れそうだ。」
「無事とは言わないのでは?天楼さん。記憶を無くして、自殺に巻き込まれているわけですし。あ、そうそうそれから・・・」
天楼さん、天楼とは私の父の名前らしい。お父さんに話しかけた几帳面そうな人は私が目覚めたときベッドのまわりにいた人達の1人で・・・誰だろう。
彼が何かお父さんに耳打ちしたが私は耳がいいので聞こえてしまった。
「苺楼を巻き込んだ男子中学生は助からなかったそうです。」
と聞こえてしまった。
助からなかったんだ。そこで私はようやく理解した。私が助かったのは奇跡で、もしかしたら男子中学生が助かって私が死んでいたかもしれない。それと同時に2人とも死んでいたかもしれないんだ。そう思うと私だけ助かったのが申し訳なく思えて来た。
しゅんとした顔をしていると肩をぽんと叩かれてびっくりしてしまった。
「あ、ごめん苺楼。」
そこにいたのは目覚めた時にいたイケメン達のうちの1人。にこやかな笑顔が印象的の細長い髪を後ろでひとつにまとめた執事ってイメージのイケメン。
「あ、覚えてない・・・んだよね。えっと・・・自己紹介しとこうかな。」
ニコッと人懐っこい笑顔で笑ってみせた。
「俺、時東杏治(ときとうきょうじ)!時東組組長の息子ね♪で、苺楼の婚約者!!」
時東組は・・・知ってるなぁ。えっと、ヤクザだった気がする。けどそんなことより、私の・・・婚約者?
「おい、何勝手なこと言っている?お前は婚約者でも何でもないだろう。婚約者は俺だ。」
杏治を睨みつけ駆け寄ってきたのはさっきの几帳面そうなメガネのイケメン。髪も整ってて。しっかりしてそう。
「あ、こいつは狂花実月(きょうかさねつき)。神経質な性格が面倒なやつなんだ。あ、僕は苺楼の婚約者の霞狛(かすみはく)!よろ〜」
ボサボサ頭の子供っぽい子が霞狛か。ちょっと待って。狂花実月?
「狂花って、あの狂花財閥!?えぇ!?じゃ、霞って、あのKASUMI病院!?じゃないよね。うん。ないない。」
狂花財閥といえば指折りの有名財閥。KASUMI病院といえばこの辺りじゃ1番大きな病院だ。そんな人が私の婚約者を名乗るはずないない。
私は必死にそう言い聞かせたがそんな私の抵抗も虚しく・・・
「いや、」
「その通りだよん。」
あっさり、肯定されてしまった。
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