家族検診

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家族検診

 元警察庁祓魔課の日常2 鬼のブルース編  音楽クリエイターの人化オーガ鬼哭啾啾(きこくしゅうしゅう)こと銀正男(しろがねまさお)は、ハラハラと落ち着かない様子だった。  ガラスで仕切られた特別病室の中で、ぼんやりと石山さんの検診を受けているのは、正男の嫁の氷花と娘の梨花だった。  落ち着かない理由は、娘の梨花にあった。  生後半年で、もうオムツも卒業し、莉里に貰ったぷいきゃーシリーズの最新モデルのフィギュアで遊んでいる。  そもそも簡素な患者衣に着替えているが、普段はもう屋敷のメイド服を着ているくらいだった。 「ハナちゃん。大丈夫か?梨花も」 「心配されて凄きゅ嬉しいだす♡ただの検査だお。ねー?梨花ちゃん」 「ママしゅきー。パパもー。ぷいきゃー、へーんーしーん」  氷花の膝の上でとったぷいきゃー変身ポーズは何とも可愛かった。  生後半年でもうこれだ。正男は石山さんに聞いた。 「ハナちゃん達に異常はないのか?悪魔先生」  ペストマスクの医者はくぐもった声で応えた。 「一切の異常はありませんでしょうな。この生後3歳の奥様を娶るとは完全に犯罪行為と言わざるを得んでしょうな」 「本当か良かったハナちゃん!先生もありがとうな!ただもっぺん言ったらペストマスク引きちぎって混元傘(こんげんさん)捩じ込んでやる!」 「問題ないことを一々確認する必要があった。本当の母親(ゾーイ・エバンス)の技術はやはり大したもんだ。成長が早いってことは老化も早いと考えるのが普通だからな。やっぱり爬虫類系妖魅は、幼体時と成体時で変化の具合が変わるようだ。早く大きくなって妊娠可能な時間がえらく長い、世の女性の夢のような性質を更に人為的に強化されている。お前等の寿命はえらく長いぞ。100年程度ならこのままだ。良かったなロリコン人化オーガ」 「うるせえよ勘解由小路!お前新人議員の仕事はどうした?!」  こないだの選挙で、無事勘解由小路夫妻は議員になっていた。  引退した祓魔課の頂点二人が政界進出したことに対し、世間は騒いだが、面と向かって文句を言うような命知らずはいないようだった。  だってこいつ神だし。  正男もこの前封切りされた記録映画ゴールデン・ダークネスを劇場で見てきた。  ちなみに、正男の姿はあったが、常に見切れていたがキャプションで2歳児に手を出したロリコンと書かれていて心底殺意が沸いた。  ところで画面端にいた勘解由小路の左手は何故か健常で、割とヘビーな状況で何をしてのか疑問に思っていた。  この馬鹿陰態(異空間)の中で人に静也を探させたり、冥界の根の国でヨモツイクサやヨモツシコメと戦わせたりしている時、何をしてると思ったら、ずっと嫁の尻をまさぐっていたのだ。  奥に引っ込んでイチャイチャしていたらしいが、監督の小鳥遊山椒には通じなかった。  どスケベハデス嫁の尻をサワサワってキャプション入れられて、ハデスの権威は露と共に消えた。  今回の検診に対し、正男だけならまだしも、勘解由小路夫妻にメイド長の鳴神、更にはトキまで来ていた。 「大事な家族の定期検診をブッチするような社会になるくらいなら革命政府を立ち上げるぞ俺は。野党が文句を言おうものなら稲荷山が総力を上げて人道無視の人非人議員にしてやる。何よりマコマコが気にしてるんだ。大事なくて良かったな涼白さん」 「は、はい!ありがとうございますた!」 「涼白さんがずっと若いであろうことが解ってよかったです。即ち他人事ではありませんから」 「ああそうか解ったぞ!お前の嫁の身代わりにされたのかハナちゃんは!だったら自分で検診受けろ嫁由小路(よめのこうじ)!」 「いいじゃないか正男。もし問題があれば俺が何とかしてやったろう。現に2000年前に、死の呪いを逆転し、逆に死なないアルビノ嫁にすることすら出来た。まあ覚えてないし、それやったらもう涼白さんは妊娠することはない。人は死ぬから遺す。死のない人間は遺す必要がなく永遠に貪り続ける。涼白さんはまだ産みたいのか?」  突然意味深なことを言った。  この前ギリシャに行ったのと、何か関係があるのか。  氷花は、強い口調で言った。 「赤ちゃんが産めなくなるなら永遠なんか要りません!涼白は、正男の赤ちゃんもっと産みたいどす!ね?!パパ?!」  面と向かって言えるかこんな話。  でも、もっと子供がいてもいいとは思う。  6つ児とか7つ児でなければ。  恐ろしい幼児の予言は、今も正男の人生に影を落としている。  俺は音楽に人生を捧げた人化オーガで、回りには雑多にして濃密な国の中心に立つような人間が犇めいている。  ちょうど解り易いのが入ってきた。 「いつまでやってんのよ。大丈夫よ福神()がちゃんとあんた達を祝福してるから。ああああ!相変わらず可愛いわ私のお花畑達!弁天のお姉ちゃんが来たわよー」 「弁天ねーねーしゅきー。梨花ねー、まだねーねーのお部屋掃除してないのー。お酒の空き缶カンがいっぱいー」 「飲みすぎだお前は!赤ん坊に掃除させんな!梨花は今可愛いデザインの地ビールの缶を集めるのが趣味になってんだ!何がよなよなエールにインドの青鬼だ!子供の教育に悪い!現に梨花は早速流紫降の使った箸をウキュっとした目で集めていてな!」 「いいじゃんか師匠。地方ライブに行った時に面白い地ビール缶がないと萎えるのよ。私のギターに何か問題でも?」  さっさと琵琶からギターに持ち替えた弁天は、最近ギタージャズにハマっているらしい。  勘解由小路が聴かせたケニー・バレルのムーン&サンドを聴いてふおうってなったらしい。  かつての伎芸天(ぎげいてん)の長、音に聞こえる芸術神、弁財天は、すっかりギターとジャズにハマり、日々ジャズの伝道に力を入れているようだった。  既に、ミッドナイト・ブルーのコピーを終え、最近はブルー・バッシュやりたいからオルガン弾いてよ師匠などと言われている。  俺ジミー・スミスじゃないんだよな。大体こんな弟子とった覚えないし。 「私が側にいるのよ?梨花ちゃんは絶対に幸せになるんだから」  弁天に守護される娘って何だよ?  正男は釈然としないものを感じていた。 「ねえ梨花。帰ったらねーねーとギター練習する?」 「梨花ちゃん掃除の方がしゅきー。梨花ちゃんメイドさんになるんだもーん」 「あーん小憎らしい子!でもそこが好きよ梨花。この天才豆ギタリストは」  確かに梨花は子供用のギターが上手い。  ある日家の中で、何とも癖のあるブルーノートスケールを聴いた時に思った。  うちの子ブルースやりたいほど人生に疲れてるのかな?  不自由はさせてないんだけど。  とりあえず銀正男は、愛する家族に囲まれて、その家族は他の連中に大いに好かれているようだった。
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