当たった人たち

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当たった人たち

 私は《くじ引き》の権利を与えられた。  私はいままさにふたり組の兵士によって一時的に地下牢獄の檻の中から出されようとしていた。  「ふん、奴隷のお前にも《くじ引き》の権利があるとはな」ひとりのひょろながい新米兵士がぞんざいに言うと、  「まあそう言うな。いいか? ここは【公平な国】なんだよ。奴隷にも年に一度のチャンスをやるというのが、国王様の考えなんだ」と筋骨隆々とした壮年の兵士が不気味に笑いながらこたえた。  若い新米兵士は「はあ」とか「へえ」とか言いながら壮年の兵士の横に立つと、私にほら早く出ろもたもたするな歩け、とどなりつけた。  私は黙って彼らの前を歩いた。奴隷は不用意に発言を許されない。彼らがその気になれば私に大けがを与えるくらいのことはするだろう。  今日は年に一度の外へ出られる日。  《くじ引き》の結果を聞くために国民が中央広場に集まる日。  どうにかして脱走をしたかった。  《くじ引き》の時間になれば中央広場に人がごった返す。私を見張っている兵士たちも《くじ引き》の結果のほうに気が向くだろう。  そこが千載一遇の好機となるのは、前年までの経験で知っている。なんとしても今日、脱走しなくてはならない。  しかしそれを私が知っているという事実の裏を返せば、毎年脱走に失敗しているということにほかならなかった。  牢獄の内部を兵士ふたりと歩く。  カツン。カツン。カツン。カツン。  錆びた階段をのぼり薄暗い廊下を歩き続け途中いくつもの鍵を兵士たちが開いて嫌な臭いも薄くなってきたと思っていると、私に鉄製の手枷が施錠されていることを入念に確かめそして特別大きな鉄扉が開かれた。  やけに眩しい光が目を細めさせ、そして少しの喧騒が耳をくすぐる。  「ほら、久しぶりの町だぞ。ちっとは嬉しいか?」  若い兵士がそう言い、私は前後を兵士たちに挟まれる形で外に出た。  一年ぶりに見上げた空は、濃い灰色の雲たちが青空の存在をひたすら隠していた。強く怪しい風が私の手枷をじゃらじゃらと鳴らす。  最低限の簡素な服――頭からすっぽりと被っただけの布切れと呼んだ方がいいくらいだが――に身を包んだ私は肌寒さを覚えた。  待ち焦がれたこの日くらい晴れてくれてもいいだろう。  フードを深くかぶり直しながらやはり私は運が悪いと、そう思った。  どうすれば脱走できるだろうか。  私が収容されていたのは城近くの牢獄だったから中央広場まではすぐに着いてしまう。私は両脇に兵士を抱えて歩きながら目線だけを動かして脱走のヒントを探していた。  なにか武器になるものはないか。  前年までと違った条件はないか。  この国の警備体制は十全で脱獄や脱走は聞いたことがないし、こっそり武器をつくるような機会も牢獄の中にはなかった。  今日という日を逃したら次のチャンスはまた一年後だ。  一年。  なにも期待しないで過ごすそれはあっという間だが、なにかを期待して過ごすそれはとても長い。  と考えていると舌足らずな声が石畳に響いた。  「あー。奴隷さんだっ!」  視線を向けると、同じく中央広場に向かう途中なのであろう幼い少女がこちらを指さしていた。優しそうな母親と頭のよさそうな父親に手を繋がれ歩いている。  私は文字は読めないが、話すことも聞くこともできる。  少女のその言葉はただひたすら私が奴隷であることを再確認させた。  「あら、本当ね。リリーは奴隷を見るのは初めてだったかしら?」母親が微笑みながら言った。  「うん、はじめて! ……ねぇ、パパ。奴隷さんも《くじ引き》を受けることができるの?」  「そうだよ。リリー。僕たちの国は【公平な国】なんだ。王様が法律を決めて数少ない奴隷にも公平にしてくださっているんだよ」  「そっかー。王様ってパパやママみたいに優しんだね!」  「あら、この子ったら。ふふふ……」  母親はまた笑いながら兵士たちに向かって会釈をした。  若い新米兵士が小さな声で言う。「先輩、ぼくも早くああいう幸せな家庭を築きたいです……」  「お前には十年はやい」  「十年……」新米兵士はわざとらしく項垂れた。  「ま、地道に働けってことだ。――それか、」  「それか?」  「今日の《くじ引き》で当てるこったな」  「この中央広場がこれだけ広いのも、《くじ引き》を盛り上げるためだって話なんだからとんでもないことだよ……。なあお前。お前もそう思うだろう?」  壮年の兵士が私に尋ねたがどうやら返答はどうでもいいようで、兵士はすっと前を向いた。  私と兵士たちは中央広場に到着した。  数万人が収容できる中央広場は国で一番の大規模な施設であり、国王の演説は必ずその壇上で行われる。壇上の後ろには唯一無二の城が控えていて、王の威厳をこれでもかと示すことができる算段だ。  広場はもう国民で溢れんばかりとなっていた。  「もうそろそろか?」  先輩兵士の方が言った。  くじの結果発表は太陽が一番高く昇るときに始まると決まっている。太陽の神の恩恵を受けるためだそうだ。ただ今日は厚く覆われた雲のせいでよくわからなくなってしまっているが。  私は脱走する方法を模索している段階だった。  やはり手枷がある状態で逃亡はかなり困難だといえる。  必要最低限の食事と睡眠しか与えられていないため逃げ切れる自信も全然なかった。  しかし、今日この日。どうにかしてやらねばなるまい。  ひとつだけ所持を許された紙切れ――そこには国王のサインと長い文字列がかかれていた――をぎゅっと握りしめる。  諦めるにはまだはやいと自分を鼓舞し、兵士に勘づかれないように辺りを見渡した。  すると近くにさきほどの少女がいたことに気がついた。両親はいない。きっと酒とつまみでも買いに行っているのだろう。この《くじ引き》は景品が豪華すぎて、つまり現実的に当たる確率ではない。だから国民は当たる、当たらないに一喜一憂するというよりは年に一度のお祭りの感覚で過ごすというわけだ。国民の仕事は絶対に休みなっている。……奴隷の私でさえ休みなのだから。  そんなことを思いながら少女をみていると、私に気がつき無邪気な笑顔を振りまいた。  ……少女は果たしてこの《くじ引き》の仕組みをどこまで理解しているのだろうか。  そして私は考えた。  この少女を人質にして逃亡するというのはどうだ?  それくらい容易にできるんじゃないか?  ――いや、やめておこう。  この少女が可哀そうだという気持ちも多少はあるが、なにより人質をとったところでこんな人数のなかを逃げ切れる気がしない。  まだどうにかなるさという気持ちと今年も失敗かという気持ちが渦巻いて、長く息を吐いた。  国王が必要以上に豪奢な壇上にのぼったとき、激しい雨が降りだした。この季節では珍しいことだ。風も勢いを増して嵐の時期のそれよりも強いくらいだった。  しかし国民たちはその場から動くことなく、ただ国王を見つめ続けた。  「くじ、濡れないようにしないと」若い兵士が言って、  「ああ」短く壮年の兵士が答えた。  国民にとって《くじ引き》がなによりも大切だった。  国王は、あいにくの悪天候だが逆にあなたの幸運は残っているかもしれない。《くじ引き》は公平に行われるから誰にでもチャンスがある。もしも《くじ引き》の結果が悪くても気を落とさないでくれまた来年があるなどと、調子のいいことを雨が入ってこない屋根付きの壇上から高々といった。  国民は国王が息継ぎをするごとに大きな歓声をあげ、天気に反して広場は熱気につつまれた。  私の近くの少女のもとには両親がもう戻ってきていて、家族は楽しそうに壇上を見上げていた。  《くじ引き》が始まった。  毎年景品は十種類ほどで、豪華な景品ほど当たりの数が少ない。  王が《くじ引き》に記載された長い文字列を読み上げるたびに国民は自分のくじを確かめて落胆と、ごく稀に大きな叫び声が聞こえた。私はそれらを見ながら、兵士たちの隙を窺っていた。  若い兵士が欲していた「温かい家庭」は六等で、当たりは十五人分だった。  次々とくじの結果を王が読み上げていき、とても薄い確率で当たった人たちは壇上の隣のこれまた豪華な、景品を授与するためだけに作られた台にのぼり国王から直々に目録を手渡された。そこは屋根がなく雨ざらしで、側近に雨除けをさせながら登場する国王が嫌な顔をしているのを私は見逃さなかった。  三等の議員になる権利、二等の大金持ちになる権利の《くじ引き》が終わると、満を持して今年の一等の景品発表があった。  「では国民の皆さん……今年の一等は――――、『好きな法律をひとつ作っていい権利』です」  国王がそういうと、一番の大歓声が巻き起こった。  国王は、ほかの法律と矛盾しないものなら私利私欲を満たすだけのものでもいいと付け加えた。国民はさらに歓声をあげる。  このころには雨脚が強くなるどころか雷すらも鳴り出したが、誰も気に留める者はいなかった。  「――でも先輩。さすがに空くじなんじゃないですか? もしくは特定の誰かが当たるように仕組まれているとか」  「お前、不敬だぞ……。気をつけろ。それにここは【公平な国】だ。国王様がそんなことをされるはずがない」  若い兵士は非礼を謝って、じゃあもし当たったらどうしようと夢想していた。  私はそれを静かにみていた。  兵士たちは私の存在を忘れているかのようだったが、私はまだ待つことにした。もっといいタイミングがあるはずだ。  そうだ。  私にひとつの考えが浮かんだ。  国王が最後の《くじ引き》の結果を読み上げて、国民みんなが最高潮に興奮した瞬間――。脱走はその瞬間にするべきだ。兵士たちさえ()くことができれば、あとは《くじ引き》に興奮した国民のひとりとして走り回ればいい。  私はそう思って、心の準備を始めた。  成功するかどうかは私の運次第だ。  「まだですかね」  「たしかに遅いな」  とふたりの兵士が愚痴を零し始めたころ、  「あ、ようやく登場ですよ」国王が壇上に再登場した。  怒号にもちかい歓声が巻き起こる。  例によってわざと長くしているのではないかと思わされるような前口上を国王がひとしきり述べたあと、一等の当たり番号を発表した。  「一等の番号は――『りはいぶぶす―119-0』である!」  嵐のも負けないくらいの大きなどよめきが起きた。  ふたりの兵士はもう暗記しているであろう自分のくじを再度見てやはり当てっていないことを確かめると、  「やっぱり当たらないよな。国民のなかでたったのひとりだものな」と壮年の兵士がくじを破いた。  若い兵士もそうですねと相槌を打ち、でも今年も楽しかったです。晴れればもっとよかったんですけどと付け加えた。  国民たちはしばらくその場で待った。  幸運にも一等に当たった国民を一目みようと。  そしてその人がどんな法律を作るのかと。  ――しかし、待てども待てども当選者は現れなかった。  「――ほら、帰るぞ」  若い兵士が私の背中をたたき、ここまで来たときと同じように兵士に前後を挟まれて牢獄へと歩き出した。  結局、一等の当選者は現れず国王がばつの悪そうに閉会の言葉を口にして今年の《くじ引き》は終了となった。  私は脱走のタイミングを見失った。  一等の当選者が出なかった年なんて今まではなかった。予想外の出来事だった。  「それにしても」と若い兵士。「やっぱり空くじだったんじゃないですかね」  「……ここではいいが、城のなかでは絶対にいうなよ、それ」  と壮年の兵士にたしなめられた。  近くにいた少女とすれ違ったとき、この少女を人質にする案がまた脳裏によぎった。そしてすぐにやめた。  こんな無垢の少女が私のような奴隷と関わり合いを持つべきではない。奴隷という言葉すら、知るべきではなかっただろう。  私がそうして思いを断ち切ったとき奇しくもその少女は私に話しかけてきた。  「ねー。奴隷さん。なにか当たった?」  私がこたえないでいると、少女は続けた。  「リリーはね、なにも当たらなかったんだ。なんだか当たる気がしたのに。リリーの予感、いつもはすごく当たるんだよ?」  リリーという少女は悔しそうに自分のくじを見せてきた。そこには「ぺみゃいわぐ―649-5」という形の文字が書いてあったが私には読めなかった。  母親が飛んできて、  「すみません、この子奴隷を初めてみるので興味を持ってしまって」兵士たちに向かって言った。  そして母親と私の目が合った。  その目は当分忘れられそうになかった。  壮年の兵士がこたえる。「いえ、いいんですよ。……なあ、お嬢ちゃん、ここは【公平な国】だ。ひとりしか選べれないようなすごーく低い確率のくじでも、お嬢ちゃんが毎日いい子にしていればもしかしたら当たるかもしれない」  壮年の兵士に頭を撫でられながら、少女は確率ってなあにといったが、母親が兵士さんに撫でられるなんてもうこの子は幸運ねというと、くじが外れたことなどもう気にならないようだった。  そしてもう一度少女は私の足元にくると、私が持っていたくじをひったくるように奪った。そして、小さな目をこれでもかと見開いた。  「ねえ、ママ。これって……」  私は文字が読めなかったが、どうやら私のくじは当たっているようだった。  全国民にひとりしか選ばれない、一等。  好きな法律をひとつ作っていい権利。  ふたりの兵士と、幸せそうな家族はぽかんとした。まさか、そんなわけはない。そういったふうに見えた。  一等は国民にひとりしか当たらない。しかし、国民のひとりは一等に当たる。私は国民のひとりだった。  ――私だけが先に動いた。  私はくじを少女から奪うようにすると、まだ王がいるであろう壇上のほうに向かって駆け出した。  降りしきる強い雨の冷たさ。  肌を切るような風。  光っては数秒後に聞こえる雷鳴。  必死に走る私を見ているずぶ濡れの国民たちと、追ってくるふたりの兵士。  鎧の重さからか、なかなか私に追いつけない。  滑稽だった。  私は笑っていた。  もう少し。あと少し。私は走った。  ついに壇上の前に飛び出ると、王の側近たちに止められながら、そして私は叫んだ。  「当たった……! 当たったんだ! 私を奴隷から解放しろ!」  「手間取らせやがって」城の中で若い兵士が私を取り押さえていた。  私は授与台にのぼらなかった。  私の目の前の壁一面が窓になっていて、私はそこから授与台を見ている。  私がいるはずだったその授与台に国王と共に立っているのは、見たこともない男だった。これから一等の目録を授与されるところのようだ。  私は王の側近たちに捕えられ、壇上の後ろにある城に連れられて拘束された。  国王は奴隷の妄言だなどと国民に説明して、本当に当たったのはこの男だったのだと代役を立てた。   壮年の兵士は隣の部屋で王の側近たちに私の件に関して怒られているようだったが、こちらに戻ってくると、若い兵士に言った。  「次はお前だとよ」  入れ替わるように若い兵士が隣の部屋に行く。足取りは重そうだった。  壮年の兵士は私を一瞥して、それから窓の方に目をやった。  「……おい、正直なところ、お前がこんなことをしたのは俺はそんなに怒っちゃいない」  私は例によって黙って聞いた。兵士が続けた。  「つくづくお前も運が悪いやつだと思うよ……。側近たちが言うにはな、公平にするため、なんだとよ」  私は壮年の兵士がなにを言っているか理解できずに首を傾げた。  「――お前の当たりくじが無効になった理由だよ。たしかにお前のくじは当たっていた。それも本当に一等だ。すごく低い確率だよ。しかし……。しかし、だな」  壮年の兵士は言い濁した。  このとき、私はこの男が兵士という職業には合っていないのではないかと思った。  壮年の男はまだ続ける。  「――お前は三年前に一度当たっている(・・・・・・)。だから、無効なんだとよ。それでいままさに景品を授与されようとしている男が繰り上げ当選だと。それもあの男が本当に法律をひとつ決めていいそうだ。ここは【公平な国】だからな。まあ、お前の奴隷を解放してくれる法律なんぞ作ってくれる可能性は万に一つもないだろうな……。どうだ、自分の運の悪さに納得できるか?」  私は答えず、窓の外の男のほうをみた。王には別の側近たちがついていて、王が濡れないように雨よけをかざしていた。一等を授与されようとしている幸運な男は側近たちの雨よけを断り、王から目録を受け取った。  あの幸運な男がどんな法律を願うのだろう?  一瞬だけ考えて、全然興味がないなと考えるのをやめた。  すると若い兵士が戻ってきた。  「こっぴどく怒られましたよ。まったく、おいお前、二度と脱走なんてするなよ。独房に帰ったらわかっているんだろうな――」  と、若い兵士が激怒しているそのとき、窓の向こうでは幸運な男が片手を天に掲げて歓喜のポーズをとった。  そして、その瞬間。  ピカっとなにかが光った。  あっと私は思った。  瞬間遅れて、耳を切り裂くような轟音が響き渡った。  その雷は繰り上げ当選した男のもとに落ちた。  直撃で、男は即死だった。    私は奴隷に戻ることになった。  檻の中に戻って、そこは夜だった。  奴隷が寝静まる時間。  私は牢のなかで、身動きをとらずに見回りの兵士たちの立ち話に耳を傾けていた。  「――それより、あいつが奴隷になった理由を知ってるか?」壮年の兵士が言った。  若い兵士がこたえる。「あいつって、僕らが外に連れて行ったあいつですか? さあ、知らないですね……。なにをしでかしたんですか。相当なことでもしないと奴隷にはならないのでは?」  壮年の兵士は口元をいびつにつりあげた。  「俺とお前の仲だから教えてやる。……これは階級が上がると国王様から教わるんことなんだがな。あの奴隷はな、選ばれたんだよ。公平にな」  「選ばれた? どういうことです?」  「言葉通りだよ。選ばれたんだ。あの《くじ引き》でな。三年前だったか、あの奴隷が選ばれたのは。国王様の趣味でな。毎年あの《くじ引き》で全国民のなかからひとり奴隷を選ぶんだよ。こっそりと。だからあいつが全国民中ひとりの確率に当たるのは今年で二回目ってことだ。運がいいのか、悪いのかはわからないがな」  若い兵士はわかりやすく眉根を寄せた。  「……王に仕えている僕たち兵士たちが選ばれることも?」  「もちろんある。……ここは【公平な国】だからな」  「……自分が選ばれていたと思うとぞっとしますね。ちなみに今年は何番が選ばれたんです? まさか僕じゃないですよね?」  「そんな簡単に当たるわけないだろう。ええと、なんだったかな。そうだ、これに載っているよ。上級の兵士だけに配布される伝令なんだがな」  壮年の兵士は持っていた革製の平たいバッグのような入れ物からごそごそと紙片を取り出して若い兵士に渡した。  「へえ、本当だ。番号が書かれてる。……来年からどきどきが増しますよ。こりゃ」  「お前も趣味が悪いな……。おっと長話が過ぎた。さて見回りを続けるぞ」  そうして兵士たちは日常業務にもどる。  私は兵士たちのつまらない雑談のせいでまどろみ始めながら、明日の仕事のことを考えていた。しかしなぜだか若い兵士が最後に言った言葉が妙に耳に残った。……彼はこう言った。  「――でも運が悪いですね。この今年の奴隷に選ばれた……えーと…………『ぺみゃいわぐ―649-5』の人は」  
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