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隔離を言い渡された折り、付き人の中には医師に反論し拒否した者もいた。
「落ち着いて医師に従うようにと、改めて全員に伝えてくれないか」
ジュスティーノは言った。
「患者になった時くらい、良家の跡継ぎとしての役割など忘れても良いのでは?」
イザイアはそう言い、黒い手袋を嵌めた手で寝台を指した。
診察をするので横になれという意味か。
「シャツはそのままで結構。下だけ脱いでください」
ジュスティーノはズボンだけを脱ぐと、寝台に仰向けになった。
イザイアが、杖の先端で耳朶の下の辺りを探る。顔を傾けるよう指示し、次に両側の首筋を見た。
広間で付き人に直接触れず蝋燭を使って診ていたのは、こういうことかと思った。感染を警戒してのことだったのだ。
杖がジュスティーノの襟足を掻き分け、首を滑る。
冷たい杖の先の感触に、ぞく、と身体が反応した。
ほんの僅かだが息が震える。
横目でイザイアを見た。
仮面で隠した顔の表情は分からない。無言でこちらを見下ろしていた。
他の者は平気なのだろうかと診察のたびに思っていた。
ただの診察で、いちいち肌に触れられる感覚などに反応しているのは自分だけか。
杖の先が移動し、ラフに着たシャツの胸元を探る。
脇の辺りをツッ、となぞられ身体が揺れた。
「動くな」
イザイアが静かな口調で言う。
杖でシャツの裾を捲る。杖の先端が腰を滑り、ジュスティーノは軽く息を揺らした。
冷たい杖の先の感触が、素肌の鋭敏な箇所を何度も行き来する。
「その仮面は皮製か」
震えた息を誤魔化すためジュスティーノは質問した。
「いい香りがするが」
「嘴の部分に、香草を詰めている」
イザイアは言った。
「私に発症の兆候はあるか」
「今のところは無いが」
杖の先が、脚の付け根を滑った。
大きく息が跳ねる。
ふと、イザイアの背後で見ている助手が目に入った。
杖の先端で触れられて反応しているなど、女性でもあるまいし。ジュスティーノは恥入って軽く唇を噛んだ。
「感染する者としない者との違いは何だ」
出来る限り平静を装い、ジュスティーノはそう質問した。
「信仰心」
イザイアは言った。
表情を引き締め、ジュスティーノは医師の仮面を見た。女性のような反応をしてしまった自身への神の戒めか。
「な、訳がないでしょう」
肩を揺らし、イザイアは含み笑いをした。
「もう少しじっとしていてくれますか、若様」
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