2. LABIRINTO

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「誰かいないのか!」  そう言い、観音開きの玄関扉を開ける。  本邸ほどには広くない玄関ホール。  正面の臙脂(えんじ)色の絨毯が敷かれた階段を見るが、誰も降りては来なかった。  客室に続く廊下と厨房の方に通じる通路の出入り口を眺める。  従僕すら出て来ないとは。 「誰か!」  ジュスティーノは声を上げた。  取りあえず、従僕の部屋に行ってみるかと階段ホールに向かう。  歩を進める間、腐ったような嫌な臭いが鼻腔に入っては消え、また移動すると臭った。  一体何の臭いかと思いながら、ジュスティーノは階段を昇った。  階段から一番近い従僕の部屋をノックする。  返事は無かった。 「私だ。入るぞ」  まさかこんな昼間から寝てはいないだろうと思いつつ、扉を開ける。  扉を開けた途端、強烈な腐臭が襲いかかった。 「な……?」  ジュスティーノは即座に扉を閉め、身を屈めて口を抑えた。  閉める瞬間、寝台に寝ている従僕らしき姿が見えた気がした。  顔が黒ずんでいた気がした。  たぶん生きている姿ではないと直感する。 「何……」  他の使用人は。  顔が強張る。  急いで引き返し、階段を降りた。  どこから確認するか迷ったが、ひとまず食堂広間に向かった。  扉を開け見回す。  誰も居なかった。  廊下に出て、行ったこともない厨房に向かう。  食料の搬入口、使用人しか使わない細めの廊下、炉辺のある料理作業部屋を見て回る。  微かに、浅い息遣いが聞こえた。  音の源を探して見回す。  下男が一人、作業台の横に倒れていた。 「どうした! 大丈夫か!」  ジュスティーノは駆け寄った。 「何があった!」 「ペストだって……お医者様が」  下男が顔を歪めながら答える。  駆け寄ろうとしたジュスティーノは、下男の手前でぴたりと歩を止めた。  抱き起こして介抱するべきだろう。  だが、それをしては自身も感染する。 「医師は……呼んだか」  身体を強張らせ、ジュスティーノはそう尋ねた。 「何人かはお医者様の所に運ばれたみたいですが……あと何人かは部屋で休むと言ったまんま……」  出て来なかったのか、とジュスティーノは眉を寄せた。
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