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「誰かいないのか!」
そう言い、観音開きの玄関扉を開ける。
本邸ほどには広くない玄関ホール。
正面の臙脂色の絨毯が敷かれた階段を見るが、誰も降りては来なかった。
客室に続く廊下と厨房の方に通じる通路の出入り口を眺める。
従僕すら出て来ないとは。
「誰か!」
ジュスティーノは声を上げた。
取りあえず、従僕の部屋に行ってみるかと階段ホールに向かう。
歩を進める間、腐ったような嫌な臭いが鼻腔に入っては消え、また移動すると臭った。
一体何の臭いかと思いながら、ジュスティーノは階段を昇った。
階段から一番近い従僕の部屋をノックする。
返事は無かった。
「私だ。入るぞ」
まさかこんな昼間から寝てはいないだろうと思いつつ、扉を開ける。
扉を開けた途端、強烈な腐臭が襲いかかった。
「な……?」
ジュスティーノは即座に扉を閉め、身を屈めて口を抑えた。
閉める瞬間、寝台に寝ている従僕らしき姿が見えた気がした。
顔が黒ずんでいた気がした。
たぶん生きている姿ではないと直感する。
「何……」
他の使用人は。
顔が強張る。
急いで引き返し、階段を降りた。
どこから確認するか迷ったが、ひとまず食堂広間に向かった。
扉を開け見回す。
誰も居なかった。
廊下に出て、行ったこともない厨房に向かう。
食料の搬入口、使用人しか使わない細めの廊下、炉辺のある料理作業部屋を見て回る。
微かに、浅い息遣いが聞こえた。
音の源を探して見回す。
下男が一人、作業台の横に倒れていた。
「どうした! 大丈夫か!」
ジュスティーノは駆け寄った。
「何があった!」
「ペストだって……お医者様が」
下男が顔を歪めながら答える。
駆け寄ろうとしたジュスティーノは、下男の手前でぴたりと歩を止めた。
抱き起こして介抱するべきだろう。
だが、それをしては自身も感染する。
「医師は……呼んだか」
身体を強張らせ、ジュスティーノはそう尋ねた。
「何人かはお医者様の所に運ばれたみたいですが……あと何人かは部屋で休むと言ったまんま……」
出て来なかったのか、とジュスティーノは眉を寄せた。
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