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イザイアの屋敷に隔離されて十日が経った。
あと四日か、とジュスティーノは窓の外を見た。
窓の下はここ十日間誰も通らず、ひたすら折り重なるようにして揺れる庭木の葉を見ているだけだった。
出来れば日付の分かる物が欲しいと医師に要求したが、患者が日付など気にするものではないと却下された。
一週間を過ぎた所で、せめてもの妥協案なのか医師は砂時計を置いて行った。
窓枠に砂時計を起き、ジュスティーノは逆さにした。
さらさらと金色の砂が落ちる。
砂を入れたガラスが、窓の桟に透けた長細い影を作った。
これを一日のうち何度か繰り返している。
今のところ体調に変化はない。
このままなら自身は解放されるかもしれないと思ったが、結局付き人達は、全員発症してしまったと聞かされた。
解放されてもここに暫く滞在するか、それとも医師に託していったん別邸へと戻るか。
後者だろうと思った。
付き人達は心配だが、家の方が今頃どうと認識しているのか気掛かりだ。
廊下から聞き慣れた靴音がする。
軽く溜め息を吐き、ジュスティーノは寝台に移動した。
腰を下ろしたのとほぼ同時に扉が開く。
鳥のような仮面に黒いフードマント、黒い手袋に木製の杖。いつものイザイアの格好だ。
助手が酒瓶をテーブルに置き、寝台横のテーブルを片付け始める。
「完食か。結構」
イザイアは言った。
嘴の部分に詰めている香草の香りが、ふわりと鼻孔に届く。
「腹痛や嘔吐、嘔気などは」
「ない」
ジュスティーノは言った。
「頭痛や悪寒や咳」
「どれもない」
「結構。服を脱いで」
イザイアはそう言い、杖を手にした。
「今ごろ何だが」
ズボンの留め具を外しながら、ジュスティーノはそう切り出す。
「隔離が二週間というのは? 根拠があるのか」
尋ねながら、ズボンをヘッドボードに掛けた。
「感染が腐臭からにしろ別の物からにしろ、症状が出ている者に近付くと感染するというのは、十五世紀には経験的に知られていた」
イザイアは杖の先に指を這わせた。先端を確認しているようだ。
「記録や証言を精査すると、概ね患者との接触後二日から一週間の間に発症しているようだと。まあ、根拠はその辺りか」
「では隔離は一週間で良くはないのか」
ジュスティーノは言った。杖の先で首を突かれ、ぞくりと肩を縮ませる。
「あとの一週間は念のためだ。土地によっては、六週間ほど隔離する所もある」
「六週間……」
「わたしは構わんが」
イザイアが言う。口の端を上げながらの口調に感じたのは気のせいか。
杖の先端がシャツを捲り、腰をツッと滑る。
大きく震えそうになった息をジュスティーノは堪えた。
「いや……二週間で勘弁して欲しい」
息の震えを抑えながらジュスティーノは言った。
「そうか」
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