後ろの理解者・ep1

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後ろの理解者・ep1

 –私、初めて本気で好きな人ができました。合コンで知り合った音大生。私と同じ1年生。  私は臆病で自信がなくて、今まで楽しい恋の思い出なんて一つもない。気になる人を遠巻きに見つめるのがせいぜいで、告白や交際なんて、私にはお伽話の世界だった。  …でも今は違う。だって彼の顔や声を思い出すたびに、感じたことのない胸の鼓動を覚えるんだもの。彼は私のことを沢山いる女友達の1人としか考えてないだろうけど、私は、彼とはもう離れられない運命という気さえしているの。  –夜毎、いけないことを妄想する。楽譜ばかり見ている目に、私の姿を焼き付けたい。音楽ばかり聴いている耳に、私の声を響かせたい。ピアノばかり弾いている指で、私の髪を優しく撫でてほしい… 「あんたさ、ストーカーになりそうな勢いだけど大丈夫?てか相手誰?今度紹介してよ」 「茶化さないで、本気なの。でも私は詩乃みたいに可愛くないし、どうしたらいいのかわからなくて」 「何言ってんの、ウダウダ考えないで告白しちゃいなよ。ウチらまだ19だよ。例え玉砕しても明日があるって!」  –1ヶ月前、そう私を勇気づけてくれた詩乃。唯一の親友だったのに、なんで自殺なんてしちゃったの。ひどいよ…  でも私は彼女の死で変わった。強くなれた。消極的な生き方はもう嫌。おこがましいけど、詩乃の分まで幸せな時間を過ごすんだ。以来、告白の決心は揺らいでいない。  –でもね、何事もタイミングはだいじ。昨日は会って3回目でホテルまで行っちゃったけど、私の想いを伝えるのにふさわしい場所はここじゃないって思ったの。  求めてくれる彼には申し訳なかった。けどそんな気持ちを彼はわかってくれて、何もしなかった。本当に優しい人。ますます好きになっちゃったよ。  –私が彼に告白する場所は、大好きな一本桜の下って決めてる。もうすぐ花が満開になるから、一緒に行って想いの全部を伝えるの。でも周りは花見でうるさいし、この辺、春は風が強いから大声じゃないと聞こえないかな。私、声が小さいから頑張らないとね。  –彼、5月からドイツに留学して、世界に通用するピアニストになるんだって。私は音楽のことはわからないけど、そのために外国に行かなきゃダメなの?寂しいよ。  だからこそ、今のうちに私のものになってほしい。気持ちを伝えるんだ。だってね、将来、例えば彼が一生を終える間際に、私の名前を叫んでくれるほどに愛してもらえたら…  あ、また妄想しちゃった。こんなだから男の子に敬遠されて…気をつけよう。  –4月1日。桜は満開、とってもいいお天気。今日しかない。彼は来てくれた。嬉しいけど、うう…緊張しちゃうな。詩乃、力を貸してよ。  花見客の喧騒がすごい。やっぱり普通の声じゃ聞こえないよね。私は勇気を振り絞って、彼の耳に近づいて大きな声で叫んだの。 「私、あなたが好きです!どこに行っても私を忘れないで!お願い‼︎」  –言っちゃった…あれれ?彼、赤くなってる。ダメ元のつもりだったのに、これってひょっとして…え、留学は中止に…ええ?いいの?私といてくれるの?…  –驚きすぎて、その後の記憶は少し怪しいかも。ああ、これが恋の時間なんだね…。頬にまとわりつく桜の花びらさえ愛しい。あんまり嬉しくて、やっと私のものになってくれた彼の左耳をバッグにしまう時に、改めて聞いてみたの。 「ね、私たち、これからずっと一緒なんだよね」
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