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「何、コソコソ話してんだ? お前ら。」
松岡と鶴見の様子に気付いた崎川が訝し気な目つきを崩さず、間に入ってきたのだ。
「い、いや、何でもないですよ。たいした話しじゃないです。」
狼狽する二人は適当に誤魔化して、慌てて先を急いだ。
他のメンバーはそんな二人を一瞥すれど、特に何か発することは無かった。
この後は順調に事は運んだ。
事前に知らされていたポイントにその定点カメラは設置されていた。
一旦全てのカメラを回収して回った一同は、べースキャンプへと戻り、早速カメラの映像をチェックし始めた。予想に反して、全てのカメラが正常に稼働しており、一定時間内の映像をきちんと収めていた。
予想以上の収穫があった。
内二台に、スマトラトラが映り込んでいたのだ。
そして、別の一台には何と、スマトラトラ以上に個体数の危ういスマトラサイがしかも親子連れで克明に映っていた。
この時ばかりは、今まであった軋轢も消し去るかのように、瞬間拍手と歓喜の声が上がったのだ。
一時、日本人メンバーとガイドたちとの溝が埋まったかのようにも見えた。
だがーーーーーー。
案の定一時であった。
その数分後、リーダーの飯田と通訳との間で再び口論が始まったのだ。
「ど、どうしたんですか!? 飯田さん!」
慌てて、松岡が二人の間に割って入ろうとした。
だが飯田の怒りは収まりそうにもなかった。
益々、激昂した飯田は通訳の胸ぐらを掴もうとした。それを見て、ガイドの一人が飯田を後ろから羽交い締めにしようとした。
その後は、計八人の男達が入り乱れての乱闘騒ぎとなった。
激しい怒号と罵声が飛び交い、ガイドや通訳も地元言葉で応戦した。
大事な撮影機材がいくつか薙ぎ倒され、先ほどまでの穏やかな雰囲気は激変した。
ようやく、徐々に冷静さを取り戻し始めたメンバーの中で、最初に口火を切ったのは、最年長でもある丸山教授であった。
『いったい、どうしたんだね?飯田君。君がこの乱闘騒ぎの発端だ。
彼らに何か言われたのかね?』
「ふ〜〜、ふううう〜〜〜。」
激しく揺れる飯田の背中。
ようやく、息を整えると飯田が口を開いた。
「いや、つい興奮しちまったな。あ、あいつ、最初の契約と違うことを言い出すもんで………。」
飯田はまだ睨みを効かせたまま、通訳の顔を指差した。
日本人メンバー全員が通訳の方を向いた。
「え? 最初の契約って?」
鶴見が聞き返した。
「何だよ、もう忘れたのかよ。こいつら、通訳とガイドは我々の調査が全て完了するまで案内して貰うという契約だった筈だ。それが、さっきあいつは俺にこう言ったんだ。『もう、目的地には到着した。我々の案内の任務は終了したことになる。明日、私とガイド二人は先に帰らせて貰う』ってな。」
飯田の予想外の言葉に、日本人メンバー全員が呆然となった。
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