第三章 Shudder

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第三章 Shudder

「生贄って、この現代にそんな古臭い習わしが今だに続いてるのかよ。 どれだけ未開の部族なんだ?」 予想だにしない通訳の発言に、再び飯田が語気を荒げた。 「でも、それしか彼らの土地に入る方法はありません。かつて、今のあなたのように古臭い習わしと見做して地元民の忠告を無視して、侵入した外国人がいました。結果は悲惨なものとなりました。」 「ど、どうなったんです?」 鶴見が恐る恐る尋ねた。 「その時、侵入した外国人は全員で五人いました。ちょうど今のあなた達と同じ人数です。その内四人までもが、侵入した直後、襲われ彼らの儀式の道具として利用されました。そして、何とか難を逃れた最後の一人も、彼らの追跡隊に遂に捕まり、その場で首を狩られました。もう、既に捕らえた場所が彼らの土地では無かった為、儀式の道具としては利用されずただ単に殺されただけでした。」 誰一人、口を挟む者は居なかった。ガイド達二人も、言葉は解らずとも何となく雰囲気を察してか無表情で沈黙を続けていた。 再度、通訳が口を割った。 「彼らに捕まったら最後、絶対に逃れることはできません。太古から、狩猟のみで生活してきた部族です。狩りの技術は卓越したものがあります。」 鶴見が通訳の話に割り込むかのように、質問した。 「そ、その、さっき言ってた ”儀式の道具“ って、ぐ、具体的にどういうことに使うんです?」 鶴見の声は明らかに上ずり、震えていた。 だが、それに反して通訳の声は常に冷静であった。 「言っても構わないなら、お話しします。彼らは、『生贄』のターゲットを決めると息の根を止めた後、その首を刈ります。首の根元部分からです。 そして……、全身の生皮を剥ぎます。その状態で暫くの間、そうですね……、三日程度その首なしの体を木に吊るします。それから、その首なしの体は『ある存在』に生贄として捧げられるのです。因みに、首から上の部分は完全に血を抜いた後、彼らの戦利品として彼らの家に飾られます。」 通訳が一言一言発する度に、日本人メンバー全員の顔から血の気が失せていくのが、手に取るように分かった。 この現代に今だそんな原始的な部族が、文明を拒絶するが如く生き残っているとは…………。 メンバー全員がそのような思いに浸った。信じられない、あり得ない。 そう言いたい欲求も、目の前の冷静に何も臆することなく語り続ける通訳の毅然とした態度に、阻まれてしまいそうであった。 一分近くは沈黙が続いたろう、丸山教授が曇ったメガネのレンズを不器用に拭きながら、その沈黙を破った。 「でも、さっきから聞いてると、君はやけにその部族に精通しているようだね。まるで、その狩りや儀式に参加したことがあるように聞こえるよ。」 と、咄嗟に通訳の顔が険しくなった。 「さすが、お偉い先生ですね。先生の言う通りです。実は、僕はその部族出身なんです。16才まではその部族の一員だったのです。そして、さっき話しに出てきた逃げた外国人の追跡隊の一員でもありました。 その時、その外国人を捕らえその首を狩ったのはこの僕なのです。」 淡々と話し続ける、通訳を前に誰もがその衝撃的な告白に、何とも例えようの無い戦慄が走った。
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