第三章 Shudder

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肌を刺すような痛々しい日光が、熱帯雨林特有の樹冠によって遮られるものの、やはり時刻が正午近くになると茹だるような暑さが撮影隊を襲って来た。 各自、体を隠せる程の日陰を見出し、想い想いの格好でひたすら通訳とガイドの帰りを待っていた。この茹だるような暑さに加え、蚊や蠅、地上性の蜘蛛や蠍などのいわゆる毒虫などが徘徊するジャングル。 ただ単に待ち続けるだけの状況では、正直劣悪な環境と言わざるを得ない。 徐々に溜まったストレスから、遂にリーダーの飯田が爆発した。 「お、おい、あの通訳どれだけ待たせれば気が済むんだ?いったい何処まで行ったんだ??」 「これだけ広大な土地ですから、きっと目当てのえ〜と、『マドゥラ族』でしたっけ? その未開の部族になかなかお目にかかれないんじゃぁないんですか?」鶴見が、滴り落ちる汗を必死で拭いながら反論した。 「じゃあ、これだけの広さがあるなら、逆に何処から部外者が侵入したとしても、直ぐには分からんだろう。そのマドゥラ族ってのがどれぐらいの人数がいるのか知れないが、常時この広さを見回るなんて土台無理じゃねえか?」 飯田の、今にも怒りが爆発しそうな凄んだ表情に、他のメンバーも口籠った。 「だったら、こんなところでボケ〜っと待ってるよりは、俺たちもこの土地に入って行ったらどうだ?」 飯田の発言に他のメンバーが驚いて皆が口を揃えて、反論した。 「そ、それはまずいですよ!もし、その部族に遭遇したらどうするんですか?彼らと戦うんですか?そ、そんなリスクは犯せませんよ!」 鶴見が真っ先に口を割った。 続けざま、丸山が口を開いた。 「何を言いだすんだね、飯田君!我々の目的はあくまでも野生動物の生態調査だ。未開の部族の探索でも調査でもないんだ!!」 滅多に声を荒げたりしない丸山教授の興奮した態度に、他のメンバー始め飯田も一瞬、たじろいだ。 「そ、そうですよ!飯田さん!ここはあの通訳を信じて待ちましょう。 辛抱強く待つしかないですよ。時間はまだたっぷりあるんですから。」 松岡も皆の反論に同調した。 メンバー達からの猛反論に会い、渋々飯田も承諾した。 だが、その表情にはまだ納得がいかないのか、周りを終始睨め付けるような表情が露わとなっていた。 重苦しい空気が辺りを支配し、誰一人として口を開こうとはしなかった。 時折、聞こてくるけたたましい鳥類や霊長類の鳴き声に一同、その声がする方向に顔を向けることすら億劫に感じ始めていた。 それからーーーーーー。 何も事は起こらなかった。全く、戻って来る気配が無い。 もう既に、時刻は午後3時を回っていた。 丸山が、おもむろに話し出した。 「考えられる可能性は二つあるかと思います。」 メンバー全員が一斉に丸山の方を向いた。 「一つには………、あの通訳と彼ら『マドゥラ族』との交渉が決裂した可能性が考えられます。その結果としては通訳とガイドの身に何かあったと踏んでもいいでしょう。」 鶴見が一瞬、驚きの表情を見せたが、直ぐにそれを隠した。 他のメンバーは無表情のまま聞いている。 「そして……、もう一つの可能性として……。あの通訳が語った『マドゥラ族』の存在自体が彼の作り事であるか、若しくはマドゥラ族自体は存在していたとしても、端から彼らと交渉する気など更々なく、我々を残して立ち去ってしまったのか………。」 丸山が話しを続けた。 「どちらであるにせよ、我々がこうしてこの場でひたすら彼が戻るのを 待ち続ける意義はもう既に、失われてしまっているかも知れません。」 額に汗をびっしょりかいた丸山の表情は、いつにも増して悲壮感に満たされていた。
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