第三章 Shudder

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そしてーーーーーーーーー、遂に。 ひたすら待ち続ける撮影隊一同をあざ笑うかのように日没を迎えることとなり、ここ熱帯雨林は昼の顔から夜の顔へと変貌を遂げようとしていた。 突如、丸山が口を開いた。 「飯田君、君がリーダーだ。これからどうするか、決めてくれるかね?」 一同、飯田の方へ向き直った。 少しの間、考えあぐねているようにもみえたが、飯田の中ではもう既に結論が出ているようであった。 だいぶ冷静さを取り戻したのか、飯田は穏やかな口調で話し始めた。 「俺は最初から考えは変わってないですよ。このまま、待ち続けていてもしょうがない。俺たちも『マドゥラ族』なる者達のテリトリーに入って行くべきだと思う。もちろん、危険は覚悟の上だが……。 ガイドも一人残っていることだし。あいつは銃も扱えるんだろ?俺たちも各自サバイバルナイフを常備しているわけだし、いざとなればそのマドゥラ族を返り討ちにしてやろうじゃねえか?」 「返り討ちとは穏やかじゃないね。ただ、私もここまで来た以上黙って引き返すのは実に偲びないと感じる。 この界隈は地元の研究者もほとんど立ち入ったことのないエリアだ。もしかすると、スマトラサイやスマトラトラが数多く生き残っている可能性も考えられる。それを確かめる価値はあるように思う。 どうだろうか?皆んなは?」 丸山教授はそう発言すると、鶴見たち他のメンバーを見渡した。 「ええ………、僕もその考えに賛成です………。 ただ………、」 鶴見が渋っていると、飯田が少し睨みを効かせながら訊いた。 「ん?ただ、何だ?」 「あ、いえ……。さっき丸山先生が仰ってたあの通訳が戻って来ない可能性に関して………。 あの残ったガイド一人を残して、通訳ともう一人のガイドがこのまま立ち去ってしまうというのは考えにくいような………。そんなことをしても、彼らに何のメリットもないわけですし、何より僕たちからまだ一切報酬を受け取っていないわけで……。 そう考えると、丸山先生が仰った二点目の可能性はほぼ無いかと思うんです。」 「ああ、確かにな。」 飯田が相槌を打った。 「そうなると……、やはり一点目の可能性の方が濃厚かと……… だとすると、そのマドゥラ族なる者達は非常に危険な存在であり、相当僕らは用心深く行動しなければ、命も危ういんじゃないかと………。」 鶴見の言葉は最後の方は力無く独り言のようになっていった。 「恐らくは、今鶴見君の言った通りでしょう。ただ、それでも私はこの地に踏み込む価値はあると考えます。」 丸山教授の言葉に、迷いは無かった。
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