第一章 Departure

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日本からはスマトラ島への直行便がなく、遠回りになるのだが首都ジャカルタ経由でスマトラ島最大の都市メダンまで国内便に乗り換え、あとは陸路で目的地の ”ブキ・バリサン・セラタン 国立公園まで向かうこととなった。 だが、想像以上だった……。 大量の撮影機材を持ち運びながらの長距離の移動にメンバー達全員が憔悴しきってしまっていた。 州都メダンから国立公園まで、優に1000㎞以上……。 冷房も満足に効かない、長距離バスでの移動中、徐々に口数も少なくなっていた……。 ただし、こんな悪条件に耐えることができるのも、幻のスマトラトラやスマトラサイを撮影するためだと思えばこそであった。 そしてようやく、バスは目的地にたどり着いた。 ドアから降りた瞬間、むあっとした熱気に包まれたメンバー達であったが、周りに広がる広大なジャングルを目にし、一瞬にして長旅の疲れが癒されるのを感じていた。 そして彼らを出迎えてくれたのはーーー、現地のガイド二人とその通訳であった。 浅黒い肌に、筋骨隆々の体格が日本人メンバーの目を引いた。 日頃からのフィールドワークを通して肉体労働に従事する事もあったのだろう、ガイドを安心して任せられるほどの雰囲気を滲ませていた。 通訳の人物は、現地の人間ではあったが、学生時代日本への留学経験があるため、流暢な日本語を披露してくれた。 お互いに自己紹介と挨拶を交わしたあと、通訳を通して分かったことは、まだイギリスの撮影クルーが到着していないこと、そしてここ一カ月以内に定点カメラにスマトラトラが二度撮影されたことであった。残念ながら、スマトラサイの方はここ三カ月ほどカメラでとらえることができないでいた。 「残念ですねぇ〜、飯田さん。もう、てっきりイギリス隊、到着してるかと思いましたよ。でも、日本を発つ前に届いたメールには順当に行けば我々の方が先に着くだろうから、現地で落ち合おうという内容でしたよね?」 「ああ、そうだったよな。なんかトラブルでもあったのかなぁ〜?」 その時、通訳がガイドに何か言われ、こちらに向かって来た。 そして何故か松岡に耳打ちするように何か伝言を告げた。 「あ、あの飯田さん、彼らが言うにはイギリス隊はまだ到着するのに時間がかかるそうで、イギリス隊からの伝言では先に撮影ポイントまで行って、準備を進めておいてくれ、 とのことだそうです。」 「ホントかぁ〜?それ。まあ、でもここでずっと待ってても時間の無駄だしな〜。撮影期間も限られてるわけだし…。とりあえず、今日は早く寝て、早朝出発するとするか…。そうしますか?丸山先生?」 「ええ、そうしましょう。向こうもプロですから、撮影ポイントもあらかじめわかってる事ですから。」 そう言うと、丸山は通訳を通してガイドにその旨を伝えた。 日没が押し迫っていた……。 遠くからは聞き慣れない動物たちの声が時々聞こえてきた。 鶴見は何か言い知れぬ不安感をぬぐいきれないでいた。 ただ、それが何なのかは自らにいくら問いかけても、答えは見つけられないでいた。 ただ一つ気になる事といえば……、あの通訳とガイドたちの挙動だった。 我々、撮影隊に対して何かよそよそしいような、ある意味一線を引いているような印象を受けたのだ。 そんな不安を胸に抱きながら、鶴見は床についた。 今夜は、簡素な作りとはいえ、一応宿と呼べるところに寝泊まりできた。 だが、明日からは違う。密林でのテント生活が始まる。 いつしか、鶴見は長旅の疲れからか深い眠りについていた。
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