第一章 Departure

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「何だって!? それ、本当か?」 飯田は突然、大声を張り上げた。 「ええ、その青年の言葉を信じるなら……。確かにこんな田舎の方でヨーロッパ人なんて珍しいでしょうから…、嘘を言ってるようには見えなかったですし……。」 「じゃ、じゃあ、あのガイド達が嘘をついてるってことか?いったいぜんたい何のために?!」 「さあ、それは全く理由がわかりません。」 「ただ、もし本当にイギリス隊が先に到着してるなら、もうすでに撮影ポイントに向かってるはずですよ。もしかしたら、イギリス隊はガイド無しで現場に向かったのかも…。我々も追いつきましょう!」 丸山が提言した。 「そうですね。その可能性もあるかも…。とりあえず、ここの研究者達が設置した定点カメラを回収しないことには。何かしら目的の動物が写り込んでいれば行動ルートも絞り込めるでしょうし。』 何か釈然としない思いにかられたままガイド二人と通訳も加えた撮影隊はこのある種、文明社会を拒むように聳え立つ密林へと足を踏み込んだ。 様々な野生動物達の今まさに生きている”息吹“を感じ、鶴見はゾクゾクと震え立つものを感じずにはいられなかった。 順調だった足取りも時を追うごとに、徐々に陰りを示した。飯田を筆頭に日本人五名共々数々の海外での撮影やフィールドワークの経験もあり、かなりの自信はあったのだが………。 日本を発った時のあの意気揚々としたムードは何処へやら、足取りも重く皆憔悴の色を隠せないでいた。口数も徐々に減り、遂には誰一人言葉を発しなくなっていた。 それとは対称的に、現地のあのガイドと通訳は余裕の表情を見せていた。 特段に彼らがそれを見せつけているわけでもなかったが、内心日本人メンバーは面白くなかった。 特に、この撮影班のリーダーでもある飯田にとっては。 この小さな軋轢と、出発前に発覚したイギリス隊についての彼らからもたらされた情報への不信感。 ーーーーこれらが、後に悲劇と惨劇を生み出すこととなる。
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