第二章 Advance

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第二章 Advance

夜の帳が下りる頃。テント内では、これからの調査方法のプランが話し合われていた。 当然のこと、その指揮を執るのは飯田プロデューサーと丸山教授である。 事前に現地の研究者から、定点カメラの設置場所は聞いてある。 テーブルに広げたこの界隈の地図と睨めっこしながら、そのカメラの設置場所を再度確認する。全部で十二台設置したカメラであったが、ここインドネシアにおいても調査・研究資金は潤沢とは言えず、かなりの年数使い込まれてきているため、何台かはきちんと作動して撮影できているかは疑わしいとのことであった。 あのガイド二人と通訳は、今日の自分たちの仕事はもう終了したとでも言わんばかりに、自分たちのテントに引きこもってしまっていた。 「それにしても、飯田さん。やっぱり気になりません? イギリス隊の事。 冷静に考えれば、先に到着しているはずですから。」 鶴見は疑念に満ちた表情を隠すことなく、メンバー全員の顔を見ながら言った。 「ああ、確かにな。疑問点は二つある。 あくまでも、鶴見と松岡が商店街で出会った青年から聞いた話が本当ならばという条件付きだが。 第一点目は、予め現地で合流してから一緒に調査ポイントまで向かう予定だったにもかかわらず、何故イギリス隊は我々を待たずに先に向かってしまったのか? そして、第二点目は、あのガイドと通訳は何故、イギリス隊はまだ到着していないと我々に嘘をついたのか? まあ、一点目の疑問が解決すれば、自ずと二点目の疑問も解決することにはなるだろうが。」 飯田がここまで話しきると、皆押し黙り考えあぐねているようであった。 と、カメラマンの崎川が口を開いた。 「仮に、イギリス隊が先に出発したとして、彼らが我々の到着を待たずに離れてしまった何か蓋然性のある理由は何か?と言うことですよね? 事前のメールでのやり取りにおける遠隔での打ち合わせでの合意からして、何の理由も無しに勝手に向かってしまうというのはどう考えてもあり得ない。何か向かわなければならない理由があったはずです。」 一時、沈黙が訪れた。 が、それまで沈黙を貫き通していた丸山教授がボソッと呟いたのだ。 「考え得る理由は、一つでしょう。予定通り、我々より先に到着したイギリス隊に向かってあのガイドたちが嘘を伝えたんでしょう。」 「え?どんな嘘を?」 鶴見が怪訝な表情で訊き返した。 丸山教授は、ごく当たり前だと言わんばかりに口を割った。 「あなた達より先に日本隊はもう出発しましたよ、とね。」 ーーーーーー、この日本隊メンバーが頭を寄せ合って議論している最中。 あのガイドと通訳が寝泊まりしているテントの前に一人の人物が立っていた。その人物は外から声をかけると、顔見知りなのかすぐさま出入り口のファスナーが開かれたのだった。 その男達の会話は、日本隊のメンバー以上に外部には聞こえぬよう警戒していたためか、所々断片的にしか漏れては来なかった。 翌日は五時起床予定。 鶴見たち五人を待ち受けるこの広大な熱帯雨林は、 雄大且つ神秘的でもありいつもと変わらぬ“泰然自若”たる雰囲気を発していた。
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