第二章 Advance

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定点カメラの設置場所までは、およそ五キロほどだ。 先頭にガイドの一人、続いて飯田、崎川、丸山と続き、通訳を挟んでその後は鶴見と松岡。最後尾にもう一人のガイドという並びだ。 ほとんど我々に対しては口数の少ない現地ガイドと通訳であったが、最後尾にいるこのガイドだけは三人の中では比較的、話し相手にはなってくれる。 だが、通訳は当然日本語が通じるものの、ガイドと直接会話する際はお互い慣れない英語であるためなかなか思うようには会話が進まない。 そんな重苦しい雰囲気に包まれながらも、調査隊一行は着実に目的地に近づいていた。 熱帯雨林特有の大型の昆虫や派手な体色を施した種々雑多な鳥類。 時折聞こえてくる、霊長類の鳴き声。 初日こそじめっとした蒸し暑さと相まって、正直これらの野生の生物たちの存在も鬱陶しく感じていたメンバー達ではあった。 だが、二日目ともなるとこの悪条件にも徐々に体も慣れ、これら野生生物たちを見聞きするにも精神的に余裕が出てくるようになった。 道中、獣道のようなある程度踏み分けたような道もあるにはあったが、大半は道無き道を進むこととなった。 その為、道案内のガイドが唯一の命綱でもあった。 一旦、小休止のため、少し開けた場所に陣取ることとなった。 想い想いに、水分補給するものやトイレに立つ者など。 ガイド二人と通訳も、何の用事があるのか三十分程の休憩中に何度も休憩場所を離れては、再び戻って来るのを繰り返していた。 『おい、あいつら行ったり来たり何やってんだ?』 飯田がぶっきら棒に問いかけるも、日本人メンバー全員が怪訝な表情で首を振るばかりであった。 再び、目的地目指して歩き始めて二、三十メートル進んだ時であった。 『あ!何だ、これ?』 飯田がその道のすぐ脇に落ちている何かを見つけ、拾い上げた。 腕時計であった。しかもまだ正確な時刻を刻んでいるし、何よりも真新しい。高級そうな時計だ。 『飯田さん、これって……。もしかしたら………。』 松岡の疑念は、言わずとも他のメンバーには自ずとわかった。 あのガイドと通訳は特に関心な無さそうな素ぶりで日本人メンバーとは少し距離を置いて立っている。 すぐさま、飯田が通訳に見せながら問いただした。 『お、おい。この腕時計、もしかしてイギリス隊のメンバーの内の誰かのじゃないか?本当はイギリス隊は我々より先にもう向かってるんじゃないのか!?』 今まで溜まっていた鬱憤が爆発したのか、飯田の口調ははげしかった。 だがーーーーーー。 ガイドたち三人は、しきりに首を横に振るのみで知らぬ存ぜぬの態度であった。 その態度のカチンときた飯田がますます語気を荒げ、ガイドたちに詰め寄ろうとした時だ。 見兼ねた丸山が間に止めに入った。 他のメンバーもそれに続く。 ガイドと通訳はそんな激昂している飯田に対して、終始冷ややかな態度を貫いていた。 メンバーたちに後ろから羽交い締めにされながらも、なお怒りの収まらない飯田。 ガイドや通訳の反感を買えば、この先の調査に支障が出るのは目に見えている。その為にも必死で飯田を止めようとする丸山や鶴見達。 しかし、この所有者不明の拾得物は、この腕時計一つだけではなかったのだったーーーーーーーーーーーーーーーー。 この時点で、時刻は出発から二日目の午後二時を回っていた。
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