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「お、おいどういうこった??な、なんで食糧がこんなにも無くなってるんだ!?」
飯田の早朝からの罵声に、他のメンバーも否応無く起こされたのだった。
「ど、どうしたんですか?!こんな朝早くから……。食糧がどうかしたんですか?」
眠い目を擦りながら、崎川が飯田に近寄りながら尋ねた。
「よ、よく見ろ、これを!明らかに誰かが盗んだとしか考えられない。」
飯田が指差したテント内を見ると、誰かが物色したのか食糧品が乱雑に散らばっており、昨日まであった筈の食糧品が減っていた。
今回の撮影は長期に渡ることもあり、撮影隊が寝泊りするテントとは別に撮影機材用、そして食糧品や日用品用に分けて別のテントに置かれていたのだった。
こんな人里離れた密林内で盗まれることもないだろうと踏まえ、特に何かしらの防御策などは講じていなかった。
「み、見てください、飯田さん。こ、これ、明らかに人の靴跡ですよ。」
松岡が気づいて指した地面にはくっきりと、靴跡が残っていたのだ。
「ど、どういうことだ?こんなジャングルの奥地に俺たち以外の誰かが居るっていうのか!?」
飯田が徐々に興奮し語気を荒げた。
他のメンバーもその返答に困っていると、鶴見が口を開いた。
「と、とりあえず、通訳とガイドにも話しを聞いてみましょう。何か不審な音でも聞いているかもしれないですし。」
鶴見の発言を受けて、直ぐさま通訳とガイドが呼ばれた。
だが、案の定彼らは、知らぬ存ぜぬの繰り返しで何も有力な情報は聞き出せなかった。
彼らの靴も調べられたが、残された靴跡とは一致しなかった。
嫌な空気が支配する中、丸山が唐突に口を開いた。
「やはり、考え得る結論としては………、この靴跡の持ち主はイギリス隊のメンバーの誰かでしょう。そう考えるのが、一番理に適ってます。」
他のメンバーも内心は同じ考えのようだった。
ただ……、誰かが代わりに言ってくれるのを待っていたかのようであった。
「で、でも、もし、イギリス隊のメンバーだったとして、何故わざわざ盗むような行為に走るんです? 何かあったにせよ、自分たちの食糧が尽きてしまったのなら、普通に我々に姿を表して食糧を分けてくれと頼めばいい話じゃないですか?」
鶴見の疑問に誰もが、一瞬押し黙った。
その間を破るかのように、崎川が口を割った。
「それとも……、イギリス隊以外の我々の知らない人物がこの辺りを徘徊しているのか………。もしくは、我々の後をつけているのかも……。
昨日、道中見つけたイギリス隊の物とみられる遺留品も何か関係があるかもしれないのでは………?」
崎川の言葉に、メンバー一同返す言葉が見つからなかった。
相変わらず、通訳とガイド達は日本人メンバーのこれらのやり取りを尻目に出発のための準備を黙々と進めていた。
その、首尾一貫とした冷静沈着な態度に、日本人メンバーは徐々に不気味な影を感じ始めていた。
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