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三人はホテルを出て、外灘の街を散歩しながら、地下鉄駅に向かった。
外灘は、英語名は『バンド』と呼ばれる街だ。
築堤・埠頭を意味する "Bund" に由来するらしい。約百年前に『東洋のウォール街』と呼ばれていた街であり、その当時からあるクラシカルな西洋建築物が建ち並んでいる。ヨーロッパを思わせるモダンな街並みだ。
そうした歴史ある建築物をリノベーションし、今はブティックやレストランになっているそうだ。
古き良き街並みながら近代的で、西洋を思わせるが、漢字の看板が掲げられている。
どこか不思議な光景でもある。
「にしても、随分、洒落た通りだな」
小松は、ヨーロッパの街を歩いているようだ、と洩らす。
一方の円生は、眉間に皺を寄せながら、辺りを見回していた。
「円生、どうしました?」
「――いや、なんや、俺が知ってる上海と全然ちゃうわ。ゴミが全然落ちてへん」
辺りを見回すと、まるで某テーマパークのようにあちこちに清掃員がいて、通りの掃除をしている。
少しの窪みもゴミ箱のようになっていた十五年前とはまるで違う町の様子に、円生は戸惑っている様子だ。
空気も澄んでいて、持参してきたマスクを出そうとも思わなかった。
「それに、昔と違て、道行く人間の目がギラギラしてへん。まったく危険な雰囲気がない」
「ええ、近年中国の都市部は、ずいぶん変わったんですよ。本当に豊かになったんです。豊かになると、奪う必要がなくなる。ですから、おのずと治安も良くなるわけです」
結局、金が人の心も豊かにするということなのだろうか?
いつも余裕がある清貴と、どこかピリピリしている円生。
それも生い立ちから来ているというのだろうか?
どうしても拭えぬ不公平感に、小松は苦い気持ちになる。
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