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良きスパイでいてくれたルイを前に、史郎は、ふふっと笑う。
「警察には、編集したものを渡したよ。『菊川史郎』の名前が出ていないものをね」
ルイは、そうですか、と相槌をうち、蘆屋大成の絵に目を向けた。
「しかし、家頭清貴が、本当に盗み出してくるとは思いませんでした」
「だな。さすが、手練手管の坊ちゃんだよ。俺も絶対不可能だろうと思ったのに、本当に盗んできた。とはいえ、俺の方が一枚上手だったけど」
逮捕される瞬間を見たかったものだ。
史郎は、悦に浸りながら、ワインを飲む。
「不可能だと思ってたんですか?」
「ああ、展示会場から絵を盗んでくるなんて、無理に決まってるって思ってたよ」
「それなのに、どうしてそんなことを?」
「あの坊ちゃんにムカついていたからな。ちょっと困らせたくなったんだよ。成功したら、こうして本物を手に入れられるし、失敗してもあいつが逮捕だ」
史郎はそこまで言って、ふと思い出したように顔を上げた。
「そういえば、この前、アイリー・ヤンから電話が来たんだよ。てっきり、あの小僧を追い返したって言葉を聞けるかと思ったんだけど」
「違ったんですか?」
「『大満足だった』って報告が来たんだ。正直驚いたな。あの坊ちゃん、本当に手練手管だ」
「マダムキラーという感じはしますね」
「しかし、忌々しい坊ちゃんだよ。まぁ、スッキリしたけど」
「史郎さんは、彼に関わらず、坊ちゃんが嫌いですよね? だから人を使ってシュエンに曜変天目茶碗もどきをつかませた」
「あれは、バカ息子から金を引っ張りたかっただけだ。にしても、あんなに簡単に引っかかるとは思わなかったよ。まぁ、たしかにモノは良かったんだが……」
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