七、出発の夜

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 小松は、混乱する脳内を整理する。  つまり、蘆屋大成は、父親と息子、二人存在したということだ。  菊川史郎がジウ氏に持ち込んだ桂林の風景画は、父親が描いていたもの。  ジウ氏が心酔した曼荼羅は、息子の円生が描いたものということだ。  かつて円生は、酒に飲まれた父に代わって、父の画風で絵を描いていたからこそ、このようなことが起こっていた。  家頭誠司の鑑定は、間違っていなかったということだ。 「あなたのお父様が描いた絵と、あなたがお父様に成り代わって描いた絵は、たしかに似ています。が、僕にはまるで違っています」 「せやろか?」  似せて描くことに自信があったのだろう。  不本意そうに問う円生に、清貴は、ええ、と頷く。 「あなたのお父様の絵を前にした時に、『良い絵だな』と感じました。ですが、あなたが描いた絵を前にすると……」  清貴は誘導するように歩き出し、足を止めた。  そこには、円生が描いた豫園の絵が飾られていた。  まさか自分の絵が飾られているとは思わなかったようで、円生は呆然と目を見開く。
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