七、出発の夜

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「やはり、素晴らしいですね。『この絵を描いたのが僕だったら』と悔しさにのたうちまわりそうです。そんな激しい嫉妬と羨望、そして感動を与えてくれる……観る者を圧倒する素晴らしい才能です」  それは清貴の方便かと思ったが、本当にどこか悔しそうだった。  清貴のそんな表情を目の当たりにし、円生はその場に膝をついて、床に額をつけるようにして顔を伏せた。 「――――っ」  声を殺しているが、円生が泣いていることが分かる。  だが、痛々しさは感じない。  洩れ聞こえてくる嗚咽はこれまで報われなかった、自分に対する労いのように聞こえたからだ。
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