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その後、ジウ氏や家頭誠司も合流し、円生の絵を前に、熱っぽい感想を伝え合う。
円生は、照れくさいのか、終始、居心地が悪そうだった。
「褒め殺しも大変だなぁ」
小松がからかうように言うと、円生はジロリと一瞥をくれる。
その迫力に、小松はたじろぎながら、悪い、と笑った。
「帰国したら、すぐに作品づくりに入るのか?」
「どうやろ。とりあえず、親父の墓参りに帰ろうかて思う」
円生は、気恥ずかしいのか小声でそう答える。
だが、その言葉は一歩前にいた清貴に聞こえていたようで、にこやかに振り返った。
「それはいいですね。ユキさんにどうぞよろしくお伝えください」
円生はギョッとしたように目を見開く。
「はっ? 俺はユキに会うなんて、一言も言ってへん」
「それは失礼しました。せっかく、故郷に帰るのですから、もしかしたら会いに行かれるのかと思いまして」
「なんやねん、それ」
どうやら図星だったようで、「ったく、ほんまにムカつくし」と円生はぼやいて背を向けた。
「にしても、あんちゃんも円生もすごいな。すごい二人が、俺なんかの事務所にいてくれたのかと思うと恐縮だよ」
小松は、しみじみとつぶやきながらワインを口に運ぶ。
「何を仰るんですか、小松さん。本当に人というのは、自分のこととなると分からなくなるものなんですね。そういうあなたこそ素晴らしいですよ」
「へっ、俺が?」
「今回のすべては、あなたの技術があってこそです。本当に感謝しています。ありがとうございました」
頭を下げた清貴に、「いや、俺は別に……」と小松は目をぐるぐるさせた。
菊川史郎から電話があった時に逆探知をしたり、アイリーの過去を調べたり、ホテルのセキュリティを調べたことを言っているのだろう。
あんなことをしていなくても、清貴は菊川史郎の盗聴に気付いていただろうし、それほど役立った気はしていない。
だが、礼を言われるのは、悪い気はしなかった。
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