七、出発の夜

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「どこまでも、あんちゃんだな……」  小松は感心を通り越して、半ば呆れたようにつぶやく。  その横で、円生がくっくと笑っている。 「今からニューヨークて。そら、ええわ。葵はんによろしゅう」  ええ、と清貴は頷いた。 「あなたが、新たな道を歩き出したことを葵さんに伝えようと思います」 「そんなんええて」  円生は弱ったように目をそらした。  清貴は「ちゃんと写真も撮りましたよ」とスマホをかざす。そこには、『夜の豫園』が映っている。 「葵さんがこの絵を見たら、きっと感激するでしょう。あの女性のシルエットは、葵さんですよね?」  円生は、ぐっ、と言葉を詰まらせた。 「え、これ、嬢ちゃんなのか?」 『夜の豫園』の絵には、女性のシルエットが描かれている。  小松は、中華後宮の女官をイメージして描いたものだと思っていた。 「どこからどう見ても葵さんではないですか。横顔なんてそのままですよ」 「横顔たってシルエットだし……。嬢ちゃんだって自分だとは思わないんじゃないか?」  小松は、そう言いながら絵に目を向ける。
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