七、出発の夜

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「自分だと思うかどうかは分かりませんが、絵に込められた想いは、説明せずとも伝わるものです」  込められた想い? と小松は小首を傾げた。 「豫園の絵に記した漢詩――涼州詞は、『あの者たちは、もうすぐ戦地に行くのだから、羽目を外しても許してやってほしい』と兵士を憐み、労っている歌だといわれていますが、こうも受け取れます。『必ず、無事に帰って来てほしい』と――」  円生は、葵の無事を願い、あの作品を仕上げたのかもしれない。  円生は何も言わずに、小さく笑っていた。  最早、すべてお見通しの清貴を前に、降参、という様子だ。 「では、行ってきます」  清貴は清々しい表情で片手を上げ、皆に背を向けて、颯爽と歩き出す。  窓の外には、今も花火が打ち上がっている。  それは、まるでそれぞれの出発を祝っているようだった。 京都寺町三条のホームズ ~麗しの上海楼~ TheEnd
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