番外編 〜if〜

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「姉ちゃーん。勉強終わったよ」 弟の睦月が声を上げながら、部屋をノックした。 「はーい」 ベッドに横たわって本を読んでいた私──真城葵は、体を起こしてドアを開ける。 睦月は「ありがと」とノートパソコンを私に向かって差し出した。 「ホームズさんにちゃんとお礼言った?」 「当たり前だよ。ねっ、ホームズさん」 睦月がそう言うと同時に、パソコンからふふっと笑い声がする。 『ええ、お礼はしっかり聞きましたよ』 画面にはホームズさんの姿が映っている。 新型のウイルスが世界中に蔓延するという未曾有の事態に陥った昨今。 日本全国の学校は休校していて、町はほぼロックダウン状態。この春、高校に入学した弟の睦月も入学式に出席して以降、自宅待機していた。 もちろん、寺町三条の『蔵』も店を閉めていて、ホームズさんは、オンライン会議システムを利用して家庭教師のリモートワークを始めている。 そこに睦月も参加していたのだ。 (私の弟ということで、睦月だけは無償で見てくれている) 「ホームズさんのオンライン教室、すげえ分かりやすい。受験前にやっていてほしかったくらいだよ。ほんとにありがとう!」 今日も睦月は少し興奮気味に言って、自分の部屋に戻っていった。
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