番外編 〜if〜

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私は小さく笑って、部屋のドアを閉めて、ノートパソコンを机の上に置いた。 画面の向こうのホームズさんは、白いシャツのボタンを二つほど外したラフな姿だ。 「ホームズさん、あらためてありがとうございます」 私は椅子に座るなり、ぺこりと頭を下げた。 入学と同時に休校になって両親も睦月も不安を覚えていた。そんな中、ホームズさんが『オンライン教室をスタートすることにしましたので、良かったら』と声をかけてくれたのだ。 参加した睦月が『これまで行ってた塾より分かりやすい』と楽しそうに勉強をしている。 そんな姿を見て、両親は本当に嬉しそうだった。 今となっては、『もしかしたら、普通に学校に行ってるより学力が上がっていたりして』などと言って喜んでいる。 『いえいえ、お礼を言うのは僕の方です』 そう言って首を振ったホームズさんに、私は小首を傾げた。 「どうして、ホームズさんがお礼を?」 『僕がオンライン教室を始めようと思ったのは、睦月くんの家庭教師をしたいと思ったことがキッカケですから。 一人教えるのも、数人教えるのも一緒ですので、それならばと始めたもので……』 「そうだったんですね。それじゃあ、やっぱりありがとうございます」 私は微笑んで、ホームズさんを見る。 彼とは約1か月会えていない。 緊急事態宣言が発令され、『不要不急の外出』と家族以外と接触するのは、禁じられている。 寂しいけれど、それは私たちだけではなく、日本中、いや、世界中のカップルが寂しい想いをしている、仕方がないことだ。
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