序 章 『まるたけえびすに気を付けて』

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        * 「――え、そんなことが?」  彼女たちの話が終わり、すべてを聞いた葵は、信じられない、と目を大きく見開きながら口に手を当てている。  マジかよ、と小松は額を抑えた。  小松は、芸能界に疎いため宮崎千穂という女優は知らない(正直に言うと紅桜も知らなかった)。  だが、女優が鴨川沿いで不審死を遂げていたとなれば、いくら関係者が隠したがったとしても、ニュースになるのではないか?  動揺する葵と小松だったが、清貴も円生も平静な表情のままだ。 「……それは、今度出演する『京日和』サスペンスドラマの内容でしょうか?」  そう問うた清貴に、紅桜は、「あー」と残念そうな声を上げる。 「そんなに簡単にバレちゃいます?」  と、紅桜の二人は肩をすくめる。 「ドラマの内容だったんですね……」  葵はホッとした様子で、良かった、と胸に手を当てて、隣に座る清貴を見た。 「ホームズさんは、すぐに分かったんですね?」 「ええ、そんな大きなことが起こったら、やはりニュースになるでしょうし、そうじゃなくても、二人に悲壮感や緊迫感はない。紅子さんも桜子さんは楽しげでしたしね。もし今の話が事実なら、軽いサイコパスですよ。それに最初、秋人さんは『この子たちの相談に乗ってほしいんだ』と言いました。もし今の話が真実だったら、紅桜の問題ではなく、秋人さん自身の問題でしょう」  いつものように言う清貴に、秋人と紅桜は「うっ」と呻いた。 「やっぱり、もっと演技力を身に付けないと……はい、そうなんです。これは、これから作られる二時間サスペンスドラマのストーリーなんです」 「ドラマでは、二人組のアイドルが秋人さんの案内で京都観光をした後で、宮崎千穂という女優が鴨川沿いで死んでいるのが発見されるところから事件がスタートするんですよ」  つまり『宮崎千穂』という女優は、ドラマの中に登場する架空の存在ということだ。  清貴を騙せずにがっかりした様子の紅桜に、秋人はくっくと笑う。 「やっぱ、引っかからなかったなぁ。そんなに落ち込むなよ。もし、抜群の演技力を身に付けても、ホームズは絶対に騙せねぇから」  その言葉に、二人は少し救われた表情になった。
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