序 章 『まるたけえびすに気を付けて』

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 紅子が、はい、と申し訳なさそうに身を小さくさせる。 「前置きが長くてすみません。下見をして張り切っている私たちですが、実はまだ出演が決まったわけじゃなく、オーディション段階なんです。  でも、私たちは最終選考まで進んでいまして、そこで今私が話した部分までの脚本をいただきました。御池通で女優さんと擦り違い『まるたけえびすに気を付けて』と言われて、翌日に死体が発見されるという部分までです」 「作中の女優さんが告げた『まるたけえびすに気を付けて』という言葉は、ドラマ全体の犯人ではないけれど、重要参考人を指しているそうなんです。『それは一体誰を指しているのか、その謎を解いて伝える』という課題を最終選考の課題として監督が出してきたんです。それで、私たち、ずっと考えたんですが分からなくて」  紅子と桜子は順に言って肩をすくめる。  その話を聞いて、小松は顔をしかめる。 「それであんちゃんに聞くって、それじゃあ、カンニングだろ?」  すると紅子が「ですが」と首を振った。 「監督は、『自分たちだけで謎を解け』とは一言も言ってないんです」  続いて桜子もムキになったように前のめりになる。 「それに、最終選考にはもう一組のアイドルが残っているんですけど、彼女たちは脚本家の仕事場を訪ねて、女の武器を使って聞き出したりしていて、許せない……っ」 「桜子!」  紅子が即座に彼女の発言を遮る。  桜子は口を滑らせたとばかりに、俯いた。
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