序 章 『まるたけえびすに気を付けて』

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 紅子は小さく息をついて、顔を上げた。 「……失礼しました。私は、自分たちにどうしてもできないことがあった際、得意な方のお知恵やお力を借りる。それは決して悪いことではないと思うんです」  強い口調で言った紅子に、清貴は、そうですね、と頷く。 「それは僕も同意見です。何もかも自分でやる必要はない。自分の不得手な部分を得手な者が補う。そうやって補い合っていく方が、世の中が上手く回るのではと思うことがあります」  その言葉に、紅子はホッとした表情を見せた。 「ですが、僕の見解を告げる前に、お二人の考えを聞いても良いですか?」  にこやかに問う清貴に、二人は、はい、と頷き、まず桜子が口を開いた。 「ええとですね、宮崎千穂という女優さんに関わる人間は、婚約者の弁護士、運転していたマネージャー、プロデューサーの押尾さん、カメラマンの角野さんです。『まるたけえびすに気を付けて』の『まるたけえびす』は通りの名、道のことですよね? だから『運転手に気を付けろ』ってことかなと思いました。つまり、重要参考人は運転手を務めていた宮崎千穂のマネージャーなのかなって」  小松は、ううむ、と顔をしかめる。  次に紅子が答えた。 「私は地図を見て調べたんです。『まるたけえびす』、つまり丸太町通、竹屋通、夷川通が綺麗に揃っているのは、御所の南側でした。そこで『き』のつく一番大きな建物は『京都地方裁判所』だったんです。  もし、その場所を指しているとしたら、宮崎千穂の婚約者の弁護士が重要参考人ではないかって」  紅子の見解に、ほお、と小松は洩らした。  清貴は、ふむ、と顎に手を当てる。 「ちなみに俺も考えたんだ」と、秋人が挙手する。 「あなたはどう思ったんですか?」 「『まるたけえびす』の後に続くのは、『おしおいけ』。押尾というプロデューサーには近付くなってことかと思ったんだよ。で、重要参考人は押尾かと。単純だけどな」  その見解に小松は、もしかしたら、それもあり得るかもしれない、と腕を組む。 「皆さん、しっかり考えられていますね。それぞれの考えをそのまま監督にお伝えして良いと思いますよ」  と、清貴は微笑ましそうに目を細めた。
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