序 章 『まるたけえびすに気を付けて』

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「なんだよ、あいつら。こんなイケメンの先輩をさしおして」  秋人は面白くなさそうに口を尖らせ、葵がくすくすと笑っている。 「なぁ、結局、ホームズの見解は?」  清貴は、ああ、と口角を上げた。 「『カメラマンの角野に気を付けろ』ということかと」  その回答に、秋人と葵は、「んん?」と眉根を寄せる。 「どうしてですか?」 「どうしてだ?」  と、葵と秋人、二人の声がほぼ同時に重なった。 「『まるたけえびすに』は四本の通りです。そこに『き』、つまり『木』偏をつける。木偏に四という漢字はありませんが、その下に方角の『方』をつけた漢字はあります。通りは方向も示すので、不自然ではありません。そうするとこういう字になります」  清貴はポケットから手帳を取り出して『楞』と書いて見せた。 「こんな漢字があるんだな」 「私も知らなかったです」  と秋人と葵は、その漢字に顔を近付ける。 「読み方は、音読みで『リョウ』『ロウ』、訓読みだと『かど』」 「かど……」と、つぶやく葵。 「ええ。この字の意味は、『かど』や『かどばったもの』です。桜子さんも仰っていましたが、宮崎千穂という女優に関わる者は、婚約者の弁護士、運転していたマネージャー、プロデューサーの押尾、カメラマンの角野の四人。  となると、『まるたけえびすに気を付けて』が『楞』という文字だとしたら、その字が示すのは名前に『かど』がある『角野』です。  宮崎千穂は、御池通で偶然出会った今度共演するアイドルたちに、『角野には気を付けて』と伝えたかった。けれど本人が横にいたからストレートに言えず、だから暗号にして伝えた、という設定ではないかと思いまして」  清貴の回答に、葵と秋人と小松は、「おーっ」と声を上げて拍手をする。 「角野さんですね」 「あー、間違いねぇな、角野のことだ」  うんうん、と頷く葵と秋人。
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