7464人が本棚に入れています
本棚に追加
その傍らで、円生が、呆れたように大きく息を吐き出す。
「しかし、ほんなら『あのカメラマンに気ぃつけや』って小声で耳打ちしたらええねん。なんでわざわざそないな暗号を……」
「それはもちろんそうですが、それは無粋ではないかと……」
無粋ですか? と、葵は小首を傾げる。
「ええ、フィクションの世界の出来事に対して、いちいち真剣に取り合っていたら、エンターテインメントは生まれません。
ミステリードラマの中で殺害現場に警察官の知り合いの探偵が来ていることや、医療ドラマで医師がありえない手技をすること、法律ドラマでとんでもない弁護士が破天荒な振る舞いをすること、そうしたことに対して娯楽と割り切りながら突っ込む分には良いのですが、真剣になりすぎるのは無粋だと思うんです。所詮はフィクションです。
エンターテインメントとして愉しむ心の余裕があっても良いのではないでしょうか」
清貴の言葉に、葵は、たしかにそうですね、と相槌をうち、円生は決まり悪そうに目をそらす。
「ああ、ちなみに僕の回答ですが、監督が考えている正解かどうかは分かりませんよ」
すると秋人は「いやいや」と首を振った。
「俺はそれが正解だと思うな。でも、どうして紅桜の心を揺さぶらせるようなことを言ったんだよ? お前だって、人の力を借りることは良いことだって言ってただろ?」
「……彼女たちはライバルが禁じ手を使ったと思ったから、『自分たちも』と思っただけのことで、本来は人の力を借りず、真面目に自分たちだけで考えるタイプではないか、と思ったからです。そういうところが、魅力だと感じられて審査に進んでいた可能性もあります。だとするなら、最後に人から聞いた回答を持って行ったら逆効果ではないかと。ただ、それに対しての確証はないので、彼女たちに選んでもらうことにしました」
「真面目一直線な紅桜らしかぬ行動で正解を持って行ったら、ガッカリされる場合も考えられたわけだ」
なるほどなぁ、と秋人は腕を組んだ。
最初のコメントを投稿しよう!