序 章 『まるたけえびすに気を付けて』

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「ちなみに、秋人さんが彼女たちの立場でしたらどうなさいましたか? 彼女たちのように僕の回答を聞かずに帰りますか? それとも僕の見解を聞きましたか?」 「もちろん、お前の見解を聞くよ」  あまりにあっさり答える秋人に、葵と清貴は意外そうな顔を見せる。 「……私、秋人さんなら、『自分の力でなんとかするから』と言うかと思いました」  そう言った葵に、清貴も、ええ、と頷く。 「僕も『お前の力には頼らない』というかと」 「え、お前の力も俺の力だと思ってるんだけど……」  秋人は真顔でそんなことを言う。  それには清貴も、ぽかんとした様子を見せる。 「お前もよく知ってると思うけど、俺、元々、すげぇ学歴コンプレックスがあったんだ。親父が東大出身の弁護士で、『大学は東大以外認めない』ってタイプだった。  優秀な兄貴は期待に応えて東大へ。弟はそこまでなれなかったけど、まぁ、そこそこ優秀で俺だけ出来が悪くて、『俺は俺だ』と思いながら根っこの部分では気にしていたし、ふとした時に自分の出来の悪さに落ち込んでいたんだ」  秋人は懐かしげに言って、「けど」と清貴の方を向いた。 「お前と友達になって、それがなくなったんだ」
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