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「そして、ここは旦那様が経営するホテルでして、レストランやバーはもちろん、館内の施設、リラクゼーションルーム、プールにフィットネスクラブなどすべてご自由にご利用くださいませ。明日は、午後二時に上海博物館にゲスト鑑定士が揃う予定です。一時半にロビーにお迎えに上がりますので、よろしくお願いいたします」
それではごゆっくり、とルイは一礼して、部屋を出て行った。
「ここ、ジウ氏のホテルだったのか」
ホテルまで所有していることに驚いたが、思えばジウ氏は世界的な富豪だ。何を持っていても不思議ではない。
「本当に『上海楼』がよく見えますね」
バルコニーで清貴が言う。
ここから見ると、円柱型の細長い塔だ。色は白く頂点はドーム状で、天辺がアンテナのように尖っている。
陽が落ち始めている夕暮れ空の下、ライトアップされているのが美しい。
「まだ新しいから、ピカピカだなぁ」
小松は手庇を作りながら、上海楼を眺める。
「まるで、仏舎利塔ですね」
仏舎利塔とは構造はドーム状で頂点に相輪をもつ釈迦の遺骨を納めている(といわれる)仏教建築物だ。
「あーたしかに、天辺部分なんかはそんな感じだな」
「ほんまやな。仏教徒なんやろか」
そう話す小松と円生に、そうかもしれませんね、と清貴は目を細め、顔を向ける。
「それより、お腹がすきましたね。夕食を食べに行きましょうか」
「せやな」
「ホテルのレストラン、好きに使っていい言ってたもんな」
小松は、ありがたい、と手を擦り合わせる。
「ええ、ありがたいですが至れり尽くせりすぎるのも気が引けますし、今夜は外に食べに行きませんか? 『新天地』におすすめの店があるんです」
にこりと微笑む清貴に、二人は「まあ、いいけど」と頷く。
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