第一章 遭遇

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同期の訓練生、アユミ・セイクウは彼のことを「いつも、ひとこと、よけい」だと言う。 同期でバディのコウ・アカイシは、「訓練中は理不尽なことがあっても反論しない方がいい」と、忠告してくれた。 彼らは大学を出て空軍の飛行要員となった。 先月、やっと基礎課程を終えて飛行訓練が始まったばかりだ。 終了時の成績次第で将来のキャリアが決まってしまうのだから、教官に目をつけられて評価を落とすのは得策ではない。 たとえ相手が、訓練中はすぐに()()()と悪名高い飛行教官であっても。 ムツクラの甲高い声は続く。 「旋回ってどうやるか分かってねえだろ。今、お前がしているのは何だ」 なぞなぞ、ではなかった。 訓練生は教官の口から発せられる質問には常に素早く、正確に答えなければならない。 たとえ投げかけられた質問の意味が取りにくいものだったとしても。 「右の360度標準旋回です」 パクは答えながら、風防の向こうの景色と姿勢指示器、高度計、速度計、エンジンの回転計を素早く見比べる。 機体の傾きが緩まないよう、頭を動かしてはいけない。 高度や速度を狂わせないように、目は休みなく動かす必要がある。 訓練中はいかなる理由があろうとも、科目ごとに決められた高度、速度および針路を維持しなければならないのだ。 規定の範囲を超える逸脱があれば大目玉をくらうし、回数が重なれば追加訓練を課せられる。 適性がないと判断されれば、その時点で訓練は中止だ。 荷物をまとめて去らねばならない。 空軍のエース、「王牙乗り」になるどころではなくなる。 パイロットへの道そのものが閉ざされてしまうのだ。
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