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第一章 遭遇
パク・ヤワタ少尉は二人乗り訓練機の操縦桿にあてた左の掌に、じんわりと圧をかけた。
同時に右足を前にずらして、方向舵を押す。
天蓋へ向かうにつれ深みを増す青空の下、正面の水平線がゆっくり左へ傾いでいく。
プロペラ推進の訓練機は右の翼を下げて、旋回を開始した。
前方斜め下のとうもろこし畑が右から左へと流れだす。
パクは計基盤に目を走らせ、機体が意図したとおりの状態になっているかを確認した。
「何やってんだ、ヤワタ少尉」
ヘッドセット内に担任教官、ムツクラ中尉の声が響く。
「右旋回です。右の標準率旋回を実施しています」
教官の怒鳴り声に、パクの鼓動は早くなった。
「すいません、科目間違えていましたか」
マイク越しに問いかけると、不意に背中から衝撃を受け、体が前に飛んだ。
5点式シートベルトが両肩に食い込み、胸が圧迫される。
操縦教官のムツクラが後部座席で器用に足を動かして、パクの座席を思い切り蹴ってきたのだ。
「すいません、というのは何だ。科目が違うなんて言ってないぞ」
声が上ずっている。
いつものことだが、怒りでヒートアップする兆候だ。
「訓練科目を実施するなら、ちゃんとやって見せろ、と言ってんだ」
ふたたび背後から、「どん」という衝撃があった。
パクは、「だからやっています」という抗議の声を、すんでのところで飲み込んだ。
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