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決して目を離すなと言われていたせいか、パクの目はいち早く異変の兆候を捉えている。
強化ガラス製の風防に顔を近づけると、十字の影が形を変えていくのがはっきりと見えた。
左右の翼が尾の方へ向けて、付け根から折れたように曲がる。
飛竜の形は的当ての投げ矢のようになった。
ゆらり、と影が傾げた瞬間、パクの胸を恐怖が締めつける。
飛竜の爪が彼の胴体を鷲づかみにする映像が、脳裏に浮かんだ。
黒いシミのようだった敵影が、たちまちのうちに大きくなる。
上空18000フィート(約6000m)からの急降下であった。
パクは知らず識らずのうちに声を上げ、機を操作していた。
何と叫んだか、自分でも分からない。
ただがむしゃらに手足を動かして、緊急回避操作を行ったことだけは覚えている。
飛竜は鉤爪のついた両足を猛禽のように広げ、訓練機を捕らえようとした姿勢のまま通過する。
全長が訓練機の倍ほど、白っぽい灰色の竜毛がほぼ全身を覆っているように見えた。
一瞬、目が合ったように思う。
通過後、気流が乱れ、金属製モノコックの機体が軋むほどの衝撃があった。
パクはパニックに陥りかけていたのかもしれない。
「ヤワタ少尉、報告!」
ムツクラ教官の声がパクを正気に戻した。
「飛竜が、ダイブしました。急降下爆撃よりも深く、ほぼ垂直に落ちました」
「先ほどの揺れは、飛竜のものか」
「翼をたたんで、ハヤブサのように襲いかかってきました」
飛竜は5000フィートほど下、地表に近いところで懸命に羽ばたいている。
あれほどの急降下を行っても、地面に激突していない。
それどころか、再び上昇して来ようとしているのだ。
「よく回避した、ヤワタ。すぐに上昇しろ」
「上昇、ですか。距離をとるのではなく?」
ムツクラ中尉の声が、裏返る。
「上昇だ、上昇。280ノットに加速後、インメルマンターン。その後は旋回上昇で10000まで上がれ。復唱!」
「了解、280ノットでインメルマンターン。10000フィートへ上昇」
「無線は途中だ。3分保たせろ。飛竜から目を離すな」
教官は返事も待たずに、ヘッドセットをプラグから抜いた。
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