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指示を復唱したパクは気が重くなった。
インメルマンターンは単純な空中操作だが、苦手科目のひとつである。
ひとことで言えば縦方向のUターンだ。
水平飛行から上空へ宙返りを打って、開始点の真上で機体を捻って水平飛行に戻す。
速度は落ちるが、高度をかなり稼いで機首を180度変えられるのが利点だ。
ただし速度が遅ければ失速するし、ループの頂点で背面飛行から機体を戻す時にマイナス方向へのGが生じやすい。
マイナスGとは、遊園地の遊具などで落下の開始時に味わう、体が浮くような感じのことである。
噂によるとムツクラ教官は、「僅かなマイナスGでも頭に血が上り、その後の訓練が大変なことになる」と評判だ。
パクは飛竜が羽ばたくのを見ながら、急いでメモ帳をめくった。
インメルマンターンの要領を書いた頁を探しだすと、計器版の空きにあるクリップに挟み込む。
幸いにも、飛竜は上昇気流をつかんで高度を稼ぐタイプのようで、力強い羽ばたきによる急上昇はしてこなかった。
時間と気持ちに余裕が生じると、パクはメモにさっと目を通す。
そこにはコウに教わった要領が書き足されていた。
「インメルマンターン、開始」
280ノットに加速すると、エンジン出力を最大にして操縦桿を体に引き寄せる。
90度を過ぎると機体は背面飛行の状態に入っていく。
パクは飛竜の姿を捉えつつも、操作を誤ることはなかった。
ほとんどマイナスGを発生させることなく、インメルマンターンを完了する。
あとは旋回しながら上昇してくる敵を監視しつつ、半径5海里の円を作って上昇していく。
ほどなく10000フィートに到達した。
飛竜はおそらく高度6000フィート、かなり遅い速度で飛んでいる。
あと2分足らずで彼らと同じ高度に達すると思われた。
「待たせたな、ヤワタ少尉」
ムツクラの声がヘッドセットから聞こえた。
おそらく不意を突かれたからだろう、あやうく涙をこぼすところだった。
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