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教官は右、左、右と、30度ずつ機体を傾けて連続のS字旋回を行っていく。
「見てみろ、ヤワタ。旋回時に機体が安定してるっていうのは、こういうことだ」
外を見るか、姿勢指示器に目をやらない限り、飛行機の姿勢が変化しているとは気づかないほど滑らかな動きだった。
誰はばかることなく自慢するだけあって、超一流の技だ。
「操縦桿に手を置いて、よろしいでしょうか」
「よろしいに決まっているだろう。ラダーにも足を乗せろ。計器は見ずに、外見ろ、外を」
ムツクラの声は相変わらず無愛想だったが、心なしか上機嫌のように思える。
パクは操縦桿を握り、自分が操縦しているつもりになって舵の動かし方を体感した。
雲ひとつない青空に、地平線まで見通せるほど澄み切った空気、気流も穏やかだ。
訓練でなければずっと飛んでいたい、それほど好条件のフライト日和だった。
空はいい。やはり、いい。
パクは「パイロットになる」という決意を新たにした。
「ヤワタ少尉、3分後、10:20に科目開始」
「了解。3分後に開始します」
旋回方向の地平線から目を離し、とうもろこし畑に視線を落とす。
急旋回に備えて、開始や終了、切り返しの目安となる目標物を探すためだ。
都合よく、トラクターでも置かれていないだろうか。
秋に収穫される予定の畑に目を走らせていると、黒い影が緑に燃える大地を横切った。
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