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見えたのはほんの一瞬だが、見覚えのある形に全身の毛が逆立った。
顔から血の気が引く。
パクはすばやく首をめぐらして訓練機の直上を見上げた。
「教官! 上です。真上、いや、4時半の方向」
ムツクラはすぐに返事をしなかったが、風防ガラスには後部座席で身をひねる姿が映った。
「慌てるな。どこだ? 何を見た、パク・ヤワタ少尉」
「飛竜です。飛竜を見ました」
サングラス越しでも眩い太陽から親指の幅ほど離れた位置に、黒いシミのようなものがある。
ゴマ粒ほどの大きさだがはっきりと、翼を広げた飛竜が上空を旋回しているのが見えた。
パク少尉の体が震え出す。
本能的に、飛竜を恐れているのだ。
見つかって襲撃されても、身を守る術はない。
訓練機には武器が搭載されていなかった。
「飛竜を視認」
教官のかすれ声が耳に届いた。
いつもより低い声音からは、恐れや驚きといった強い感情は伝わってこない。
ただ機嫌が悪いだけのように聞こえた。
パクは深く息を吸い込んだ。
体の震えが止まる。
ムツクラ中尉は竜大戦の英雄だった。
パクは空軍の元エース・パイロットの飛行機に同乗しているのだ。
生還することも不可能ではないように思えてくる。
飛竜は上昇気流を受け、彼らの乗る訓練機の直上を輪を描くように旋回していた。
いつ襲いかかってくるか、それともまだ、気づかれていないか。
パクの心臓は音を立てて鼓動していた。
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