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教官が無線をしている間に、飛竜が新たな行動を起こすかもしれない。
パクは思い切って口を開いた。
「アドバイスを、お願いします」
「飛竜から目を離すな。見失ったら、死ぬと思え」
「了解、目視を続けます。特別な回避運動をするべきでしょうか」
「通報が終わるまでは、水平方向の転針だけにしろ。速度の増加はいい。ただし、250から一目盛りでも減らしたら追加訓練だ。高度は変えるな」
座席下に手を伸ばしているのか、ムツクラの声はくぐもっていた。
「了解、最善を尽くします」
「ラダーが足りてないぞ。教官に空酔いを起こさせたら、訓練中止だ。覚悟しておけ」
パクは「冗談でしょう」という声を、あやうく飲み込んだ。
ムツクラ教官が「キレた」場合、何をしでかすか分からない。
噂によると訓練中、後から首を絞められた訓練生もいたそうだ。
後部座席から手を伸ばしても届かないはずだが、やりかねない、とは思う。
「無線機にヘッドセットをつなぐ。しばらく会話できない」
後部座席から視認できるように、パクは右手の親指を立てて、頭上にかざした。
常に聞こえていたノイズが途切れる。
ヘッドセット越しに轟く12気筒V型エンジンの爆音とプロペラの風切り音、風防を流れる風の音が世界の全てに思えた。
後部座席から時おり、ムツクラ教官のがなり声が聞こえてくるが、何を言っているのかまでは分からない。
なかなか操縦に復帰しないところをみると、無線の繋がりが悪いようであった。
飛竜は訓練機の動きを追尾するかのように、ゆったりとした弧を描いて旋回している。
「だいじょうぶ。一匹なら、空軍の緊急発進ですぐに方がつく」
パクは自分自身を落ち着かせるため、考えを声にした。
その時、彼のつぶやきに合わせたかのように、上空の飛竜が変化した。
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