第二章 実戦

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教官が無線をしている間に、飛竜が新たな行動を起こすかもしれない。 パクは思い切って口を開いた。 「アドバイスを、お願いします」 「飛竜から目を離すな。見失ったら、死ぬと思え」 「了解、目視(コンタクト)を続けます。特別な回避運動をするべきでしょうか」 「通報が終わるまでは、水平方向の転針だけにしろ。速度の増加はいい。ただし、250から一目盛りでも減らしたら追加訓練だ。高度は変えるな」 座席下に手を伸ばしているのか、ムツクラの声はくぐもっていた。 「了解、最善を尽くします」 「ラダーが足りてないぞ。教官に空酔いを起こさせたら、訓練中止だ。覚悟しておけ」 パクは「冗談でしょう」という声を、あやうく飲み込んだ。 ムツクラ教官が「()()た」場合、何をしでかすか分からない。 噂によると訓練中、後から首を絞められた訓練生もいたそうだ。 後部座席から手を伸ばしても届かないはずだが、やりかねない、とは思う。 「無線機にヘッドセットをつなぐ。しばらく会話できない」 後部座席から視認できるように、パクは右手の親指を立てて、頭上にかざした。 常に聞こえていたノイズが途切れる。 ヘッドセット越しに轟く12気筒V型エンジンの爆音とプロペラの風切り音、風防を流れる風の音が世界の全てに思えた。 後部座席から時おり、ムツクラ教官のがなり声が聞こえてくるが、何を言っているのかまでは分からない。 なかなか操縦に復帰しないところをみると、無線の繋がりが悪いようであった。 飛竜は訓練機の動きを追尾するかのように、ゆったりとした弧を描いて旋回している。 「だいじょうぶ。一匹なら、空軍の緊急発進(スクランブル)ですぐに方がつく」 パクは自分自身を落ち着かせるため、考えを声にした。 その時、彼のつぶやきに合わせたかのように、上空の飛竜が変化した。
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