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10話
8月、斗真の祖母は炎天下の中、スーパーまで買い物に行った。
そこで友人と顔を合わせ、お互いの近況や、それらに対する感想を伝えあう。
おおむね十年一日、といった調子だったが、その時は少し勝手が違った。
「房江さんがいなくなった?」
「そう、10時過ぎに警察官が来てたの!玄関先に!」
つい最近、老人ホームで殺人があったこともあり斗真の祖母は肝の冷える思いがした。
その時はそれで終わったのだが、数日後、彼女は息子から老人ホームへの入居を勧められた。
――ばーちゃんの行方を調べてくれって…探偵に頼めよ。
――そんな過去と言わずに頼む!親父たちも何処のホームなのか教えてくれねぇし…。
さらに日が経った頃、斗真がLINEで相談を持ってきた。
祖母の行方が知れなくなったそうだ。両親が言うには、県外の老人ホームに入ってもらったそうだが、具体的な施設名は教えてくれない。
また、県外まで出かけているとはどうしても思えないそうだ。
――隣の県までなら、片道2時間ぐらいだろう。
――4時間もいなくなるならわかるだろ。
宗司は調べてもいいとは思ったが、手の付けようがないので黙っておいた。
その翌日、77歳の男性が殺害されているのを通行人が発見。同日、件の元警備員六道大輝の脱獄が報じられる。
宗司は斗真の相談と、報道に関係があるのではないかと不安を抱いた。狙ったようなタイミングで、侑太が電話をかけてくる。
『昨日の今日で悪い知らせだ。ウバステってカルトのアジトに捜査が入った』
『ウバステ?』
高齢者の間引きを目的とした団体で、名古屋市内で幾つか老人ホームを経営していたそうだ。
入居者の家族には精神干渉の痕跡が確認できたが、一部の家族には異常が見られなかった。宗司は一瞬、躊躇したが斗真にも情報を共有する事にした。
伝えられた斗真に、宗司の推測に気づいた様子はなかった。次のメッセージが来たのは、20分ほど経ってからだ。
――お前、ひょっとしてウチの親かばーちゃんを売ったって言いたいのか?
――そうじゃない、なんらかの催眠か洗脳を受けている可能性もある。
――そっか。けど、どうしよう?
不安に駆られた斗真は、ウバステのホームを見て回りたいと伝えてきた。
宗司は時間的余裕がある限りは付き合う事を約束、侑太はウバステの経営していたホーム、アジトの住所の調査を始めた。
2日後、頼子と貞夫を除いた、武志を含む4人は老人ホームの一つがあった徳川山町に足を運んでいた。
「おい、妙な空気だぜ…!」
「異界化が始まってるな。向こうに渡るぞ」
4人は現世から異界・徳川山町に渡る。
無人の老人ホームに侵入し、探索を開始。居室を覗いて驚きの声を上げた。
声につられて宗司達も集まると、それぞれ言葉を失う。部屋には何もなかったのだ。
ベッドもタンスもない、殺風景な部屋。唯一、厚手のカーテンだけが窓に掛かっている。
談話室、職員室も確認できなかった。
壁に仕切られた空間だけがあり、調度品、事務用品の類がこの施設には存在していない。
「おい、侑太。これって異界だから何も無いのか?」
「いや、異界って言うのは現世の写し鏡だ。だから…」
「そもそも老人ホームじゃねぇって事か」
一通り検めた後、探索を打ち切られた。
施設のエントランスから出る直前、宗司は神魔でも人間でもない気配を感じた。
引き返し、待っている間に侑太達も接近を感知。やがて、人影が一つのっそりと彼らの視界に姿を現した。
奇妙なほどに左右対称の顔をした、毛の生えていない青年だ。
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