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13話
アライグマ、クマのマスクをつけた男女はそれぞれライフル銃と斧を持ち、<ルー>に攻撃を加える。
数の差、士気の差によって追い込まれた<ルー>だったが、烏の翼を持つ乙女に救われた。
「だ、え!?鷹山!?」
「久しぶり、手伝うよ」
「お、おぉ――あ、いや待て!」
鷹山が呼び出した乙女――<ネヴァン>が死の呪詛を放った。
4人のマスクの魂魄に呪力を持って干渉し、一瞬のうちに絶命させた。あまりの事態に<ルー>は絶句。
礼を言うのも忘れて、変身を解かぬまま鷹山の前から逃げ去った。
調査を中断した宗司達だったが、内心では後悔していた。
成り行きで斗真を単独行動に追いやった結果、彼は鷹山との共闘で大きなショックを受けていたのだ。
翌日からの授業も上の空だったため、宗司達が問い詰めたところ、何を見たか、宗司達も知った。
(斗真は動かせないな)
夕食後、宗司は侑太達に連絡することなく自宅を後にする。
決着をつけるのだ。<シユウ>の探知能力を用い、ピーターパンを捜索。
やがて、千種区の住宅街を飛翔する枯葉色の装束に身を包んだ少年剣士を発見。宗司は刀を鞘から抜き放ち、斬撃波を放った。
少年剣士の背中が深々と裂け、高度を下げていく。不意に姿が消える。
「滅茶苦茶しやがって…死ぬところだったぜ…」
宗司が異界へ渡ると、少年の傷は回復していた。
「ピーターパンだな」
「そうだよ、見て分からねぇ?」
「なら、死ね」
戦闘は<シユウ>による一方的な蹂躙であった。
ピーターパン…六道大輝のCアプリユーザーとしての能力は、飛行と老人に対する特効である。
相手が老いていればいるほど殺傷能力が高まるのだが、今回は大輝の方が年上。変身しているため正体は分からないが、自分より年下だろうと大輝は見当をつけていた。
「おい、なんで俺を狙う!じーさんかばーさんがいるのか?」
「……?」
「だったらな、見捨てちまえ!あいつらは世界は散々食い尽くしたあげく、食べ滓だけ俺達に押し付けて死に逃げるゴミどもだ!生かしとく価値なんかねぇ!」
大輝は実力の差を知り、説得に出た。
少子高齢化はまずます進み、政治は老人に阿り、若者は行政に背中を向けて暮らしている。
そんな世の中なのだ。だが、未来を創るのはいつだって若い力。
「だからな、すぐにでも減らさなきゃいけねえんだ!けど誰もやろうとしない!自分の代わりに誰かがやってくれると思い込んでる」
「……」
大輝が変身している<ピーターパン>は必死で凌いだ。
しかし、それが限界。すぐに宗司の刃が<ピーターパン>の首をはねると、少年と十人並みの容姿の男が入れ替わる。
「終わりか」
「いや、これからだ!」
はねた首が独りでに喋る。
ギョッとした宗司が振り返ると同時に、八事上空に大規模な異界が出現、
それから20秒のうちに、名古屋市内にいる全ての75歳以上の男女が息の根を止めた。宗司が変身を解き、現世に出た途端にスマホが喚く。
『おい、宗司!いまどこだ?』
『あー、外だ』
『今すぐ八事駅前に来い!でかい異界が出現した、あちこちで老人が死んでる!急げ!』
宗司はバイクを取りに戻る時間を惜しみ、八事駅方面まで疾走。
ビルの屋上を縦断し、屋根から屋根へ飛び移る、天狗の如き姿を見た者はいなかった。
現在、名古屋全域で数千、あるいは数万の死者が次々と報告されているのだ。誰も空の上など見てはいない。
「高島!」
「宗司か!お前、走ってきたのか?」
「大友は?」
「まだ――」
斗真、頼子がバイクに乗って到着した。
「ねぇ、私たちを呼んだのって…」
「あれに決まってんだろ」
4人は上を見上げる。
八事駅前から西に、空の上に巨大な構造物が浮かんでいる。街の明かりに照らされて浮かび上がるシルエットは、明らかに島なのである。
家路を急ぐ通行人、まだ会社にいた勤め人、自宅でゆったりしていた恋人達が示し合わせたようにスマホを空の上に向けている。
「大友を待つのか?」
「どうしよっかな、使える奴は独りでもいた方がいいんだが…」
「待ってらんねーよ、帰るように言うわ」
「あれ、保安部が何とかしてくれんじゃないの?」
頼子は突入に乗り気ではないらしい。
侑太があの島の目撃が原因で、神秘への認知度が増え、さらなる異常事態が発生しかねないと説明。
「ふーん、それはそれで面白そうだけど」
「おいおい、勘弁してくれよ。最悪、文明が崩壊するぞ?」
そうこうしているうちに貞夫が到着。
保安部の実働部隊は既に準備を整えているが、人員を運ぶのに時間がかかるとの事。
宗司達のほうが早く動けそうだ。
「行くか」
「さっさとやろうぜ!」
「マジか…」
「うんざりしてくるな」
5人は異界に渡り、それぞれCアプリを展開。
<ルー>が鋼鉄の馬を召喚し、侑太はそれに相乗り。貞夫は<フェニックス>に騎乗。頼子を<シユウ>が背負う。
風に乗って滑空する<シユウ>は時折空気を踏みしめ、高度を上げていく。やがて島の縁に到着。島に上がる端から突入。
立ちはだかる神魔はいずれも美しい見た目をしていた。
ローレライ、バンシー ワルキューレ……貞夫や斗真が躊躇するのに対して、宗司が躊躇なく斬り捨てていく。
浮遊する島の中央部分にある宮殿。通路を躊躇なく進んでいた一行だったが、宗司が不意に足を止める。
「どうした?」
「全員引け!」
<シユウ>が一歩後退し、居合の姿勢をとると同時。
風切り音が鼓膜を揺らし、4人の視界にビームのごとき速度で飛来する無数の投槍が映った。
迫る槍衾を見るや、侑太は貞夫の肩を叩く。貞夫は頼子の<ブリジット>の放った火箭を見て、槍目がけてパイロキネシスを照射。
槍衾が焼失するのと同じタイミングで、<シユウ>がワルキューレの群れが斬り結ぶ。その中に一人スカンクのマスクをかぶった男がいた。
「宗司!」
「スカンクがいる!」
斬撃が嵐となり、戦乙女の群れを呑み込む。
スカンクは二刀を操り、<シユウ>の斬撃を受け流し、合間に刀を繰り出してくる。
「仲間か!」
<ルー>が鉄馬を呼び出し、突撃させる。
スカンクが短機関銃を構えると、向けられた銃口から火花が吐き出された。
ばら撒かれた弾丸を避けきること叶わず、<ルー>と愛馬の身体にシャワーのように浴びせられる。
二度、三度と命中するたびに痛みが増し、四度目で外皮にひびが入った。
しかし、ワルキューレの群れが全滅に瀕している。
数の利が失せ、侑太の術によって気絶させられたスカンクは衣服で縛られたあげく、屋外に放り出される。
やがて、彼らは主の間と思しき部屋に辿り着いた。
「おい、あれニュースで見たぜ」
「六道大輝か」
<シユウ>は内心驚いていた。
変身しているため動揺は悟られていないが、間違いなくピーターパンの正体であった男だ。
「おい、お前、ウバステの仲間か!?」
「は?」
「は、じゃねぇ!ウバステって、老人ホームで年寄り殺してたらしい奴らの仲間かって聞いてんだ!」
「そんな奴らいたのか!やっぱ、俺だけじゃなかったんだ!」
大輝は嬉しそうに声を弾ませた。仲間を得た、と言わんばかりの顔だ。
「おい、なんか変だぞ」
「知り合いじゃないみたいだよ…」
「外れかー、斗真もついてないね」
<ルー>は舌打ちを一度すると、六道大輝に躍りかかった。
大輝も<ピーターパン>に変身して応戦。幽鬼として復活した彼だったが、あまり長くはもたなかった。
筋力や頑強さは向上していたが、<ピーターパン>の弱点はそのまま残り、さらに幽鬼となった事で、炎や破魔の力がよく効くのだ。
大輝が消滅すると島は崩壊を開始。宗司達は乗り込んだ時と同じ要領で、街に帰還する。
それから一週間後、名古屋には大きな変化があった。
表向きはこれまで通りなのだが、異能者の数が飛躍的に増大したのだ。
記録などは特殊保安部が総出で抹消して回っているのだが、肉眼で見ていた者は一万人弱に及ぶ。
それらのうちの数%が異能者に覚醒するだけで、名古屋の心霊業界は大混乱に見舞われる。
研究会の面々はおおむね日常に帰っていたが、宗司だけは様子が違った。
以前にも増して力の探求に凝り、魔道具の収拾にも精を出す。そして数年後、彼は幽世に通じる門を名古屋の上空に開いた。
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