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3話
「リア友が飛び降りたんです」
昼休み、侑太のもとに一人の女子生徒が相談が持ち込まれてきた。
飛び降りたのは同じ高校の生徒であった為、侑太も概要は把握している。
「その子の住んでるマンションて言うのが最近、3階に住んでる人がやたら飛び降りてるって有名になってて…」
「おk。調べてみる」
「あの、お金は…」
「あぁ……知ってたか。顧問に止められたよ」
しっしっ、と侑太は依頼人の女子生徒に手で払うジェスチャー。
数日後、放課後に侑太達は件のマンションを訪れる。目的地はマンションB棟3階。
「また異界か?」
「そうだ。俺が気になってるのは両親と子供二人の四人が暮らしている部屋だ。そこだけ飛び降りが出ていない」
「確かに怪しいね…」
4人は植木や塀の側に行き、周囲に人目が無い事を確かめると異界・名古屋へ侵入。
自殺の名所、と呼ばれるほどの噂は確認されていない。現世側で怪奇現象が確認できていないため、ここで暴れてもあちらに影響は出ない。
「つーわけで、貞夫!鳥を呼び出せ」
「窓から行くんだな?部屋の位置は?」
「案内する」
貞夫が<フェニックス>を呼び出し、騎乗する。
「高島は掴まれ。斗真、一番手を頼めるか?」
「おう、任せろ!」
<ルー>に変身した斗真は、侑太に部屋の窓を示されるとそちらに跳躍。
出現させた長槍は白く輝き、ガラス窓を枠もろとも切り裂いて入口を作る。その後ろから宗司と背中に捕まった侑太、貞夫と続く。
3LDKのリビングに踏み込むと餓鬼やコボルト、オークが一行を出迎える。それらを斗真が長槍で薙ぎ払っていく。
白く光る槍は高熱を放射しており、神魔をソファやテーブルもろとも真っ二つに、床には深々と亀裂を走らせた。
一行は神魔を掃討するとリビングを探索。
異界にはたまに魔力を持った物品が落ちている事がある。
宗司達は銅塊と宝石を手に入れると廊下を抜け、異界の中心部分に通じているらしいドアを開ける。
その中には子供部屋を占拠する大蜘蛛と、膝を抱えて座る若い青年がいた。彼らは宗司達が部屋のドアを開けた宗司達にゆっくりと顔を向ける。
「こいつは?」
「長男が引きこもってるらしい…おい、今解放してやるから」
「邪魔すんなよ!!」
生気の抜けた表情をしていた青年が立ち上がりながら、怒気を迸らせて叫ぶ。
「やっとうるさいこと言われなくなってさぁ!!平和になったのに、何で邪魔するんだよ…!関係ないだろ…!」
「ハイハイ、つまりお前なんだな」
大蜘蛛が壁に足を掛け、頭を向ける。
その間に大蜘蛛は金縛りの術を宗司達に放った。地を蹴り、矢のように駆け出していた宗司を除く3人に、不可視の糸が絡みつく。
「あ、糞!」
倒れた斗真が毒を吐く。
侑太は一定のリズムで呼吸し、心身の乱れを整えていく。貞夫は部屋に入る前にフェニックスを送還しており、加えて束縛された事に気を取られているため、攻撃に加われるのは宗司のみ。
宗司は真っ直ぐ青年目がけて、『疾風』を繰り出す。右肩から胸に、顔の左半分に刀傷が生まれる。
「藤堂、殺すな!」
「なに?」
「それと異界の主だから、その辺の雑魚とは違うぞ!」
呼吸によって乱れた心身を整えた侑太が、宗司の背中に声を掛ける。
侑太は立ち上がるなり、立てた指二本を眉間に当てて「クニノトコタチノミコト」と叫ぶと気合と共に振り下ろした。
大蜘蛛と青年の双方に、無数の拳大の雹が浴びせられたような衝撃が襲う。
衣服と皮膚が裂け、血飛沫を散らしながら青年が倒れ込むと、大蜘蛛は姿を消した。
「お前、結構怖い奴なんだな」
「心外だな。こいつのおかげで死人が続出している…違うのか?」
「断言は出来ねーだろ。…見ろ」
侑太は青年の者と思しきスマホを取り上げると、指で何度か操作してから宗司に画面を向けた。
金縛りの解けた斗真と貞夫も画面を覗き込む――Cアプリが表示されていた。流入神魔は<オオグモ>とある。
「こいつは保安部に引き渡す。とっとずらかるぞ」
「保安部?」
「警視庁特殊保安部。悪霊とか魔術師とかと戦う、非公開の部署なんだよ」
「ふーん、そんな奴らが…魔術師?」
予想外の単語だったらしく、斗真の表情が固まる。
「侑太もそうだろう。驚く事じゃない」
「保安部に目ぇ付けられるようなことはやってねーよ、ほら行くぞ」
侑太の指示の下、気絶した青年を部屋に放置して現世に帰還。
侑太は外に出るなり、自身のスマホでどこかに連絡を取った。ほどなくして、1台のトヨタ・カローラが到着。
スーツ姿の男達が後を引き受け、宗司達は引き上げる事になった。
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