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7話
一日の授業を終えた宗司は、独り鶴舞公園まで足を延ばしていた。
<シユウ>の力を呼び出す。変身には至らないが、陽炎の如く<シユウ>の気が周囲の大気を歪める。
風と水を操る<シユウ>の力、異能者が持つ霊力の流れを読み取る力。2つの相乗効果により、昭和区内において霊格が不自然に高まっている地点を把握する事に成功。
それが済むと現地に向かい、異界へと侵入して戦闘と道具や素材の回収を行う。平日でも暇が出来ると、宗司は独りで異界に繰り出している。
自分の技量を確かめるなら一人で戦う方がいいし、侑太や斗真達に伝えると儲けの取り分が減ってしまう。
武志に至っては論外。リスクはあるが、単独行動の方がいいと考える宗司は、幾つかの拠点を発見。ある程度まで接近して、離れるという作業を繰り返していた。
(複数人の反応がある……侑太にも聞いてみるか?)
宗司は侑太に、自分達のような異能者はどのように働いているのか尋ねた。
「妙な事聞くな……俺らみたいな異能者は、たいてい何処かしらの組織に属してるよ。カルトって俺らは呼んでる」
宗教的、政治的な思想、あるいは利潤目当て。
心霊業界では様々な目的でカルトが創設され、衝突や和合を繰り返している。
「下手に突っつくんじゃね~ぞ。あぁいう処は面倒くさいんだ」
「わかった」
後日、宗司は早速カルトのうちの一つと接触する事になった。
矢場町の仲介屋で、素材最終の依頼を受けたのだ。依頼主はミライ研究所という。
新しい人類について研究している、という以上の事は、仲介屋では教えてもらえなかった。
金山のビル街の一角にある駐車場で面会すると、内容の詳しい部分を伝えられる。2日かけて指定の場所へ運び、40万を電子通貨で受け取った。
「最近、ウチの親が妙に仲が良くて…」
「そりゃ良かった。お帰りはあちらだ」
ある日の放課後。依頼人が口にするなり、侑太は退室を促した。
「違うんだって、最後まで聞いて!ウチ、離婚協議中だったのに、急に仲良くなって、おかしいんだって…」
依頼人の両親は急に仲良くなり、前日まではその予兆すら無かったという。
侑太は大して興味が無かったが、依頼を受けた手前、一応は調べてみる事にした。
依頼人の自宅を中心に情報を集めてみると、揉め事が少なくなったらしい事が明らかになった。不思議なほど落ち着いている、という報告を協力者から受け取った侑太は、自ら現場に赴くことに決めた。
「平和なら、いい事なんじゃないの?」
「これ自体は問題じゃねぇよ」
気持ちが落ち着く住宅地がある、という噂が広まる事を侑太は危惧している。
定着すれば、やがてこの住宅地はパワースポット化するだろう。その範囲が広がれば、行きつく先は異界化だ。
その為、この異変の主には一度会わなくてはならない。霊感の鋭い侑太を先頭に、気配が放たれている家に近づいていく。
「ここか?」
「どうやって入る?」
「場所の見当をつけるだけだ。知り合いでもねぇしな…高田か」
研究会は一度退散し、高田家の調査を進める。
母一人、子一人の家のようだ。異能者は子供、壮年の男の方。
夜、家路を急ぐ高田の前に侑太が姿を現す。高田は侑太の顔を見るなり、身を翻して逃走を始める。
「何処に行く?」
自宅から離れる高田の前に、宗司が立ちはだかる。
「う、なんだ!?君達、普通の人とは違うな…?」
「お前もそうらしいな?何人かは気づいてるぞ」
「気づいてるって、誰が?」
「この辺にいると気持ちが落ち着く……もめ事があっさり解決する、お前、何か知らないか?異能者…」
侑太は2人のもとにやってくると、高田に話しかけた。
まもなく貞夫や斗真、頼子も集まってきて、高田から事情を聴くことになった。
「先週の頭位なんだけど、自宅が汚れないって事に気づいたんだ。埃が堪らなくなったし、風呂場も、掃除しようとしてみても何処も汚れてない」
シンクに溜めていた食器が、洗浄していないのに綺麗になっていた。
その一件をきっかけに我が身に起きた変化を察した高田は、「周囲を浄化する能力」を使って、少しだけ生活を楽にしていた。
殺傷力のある能力ではないので遠慮なく使ってしばらく経った頃、見かけない男達が話しかけてきた。
「――!?うぅ…っ!」
突如、高田が苦しみだす。
一行が駆け寄る。宗司は毒でも盛られたのかと考え、医者に運ぶことを提案する。
「名城公園近くに霊障を見てくれる病院があるが…!?」
高田の身体がグズグズに溶け、その場に温かいスープと高田の服が残される。
侑太は悔恨の情を一瞬顔に浮かべるが、すぐに気持ちを入れ替え、特殊保安部に連絡を入れる。
その場にやってきた事後処理部隊の責任者に事情を知らせると、研究会の一行は解散となった。
後日、犠牲者の遺体から小蜘蛛が1匹採取されたと侑太に連絡が入る。今後は蜘蛛に警戒しなければならないようだ。
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