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8話
保安部の実働部隊が蜘蛛人間と交戦し、2体を生け捕りに成功。
護送中に2体が自決するアクシデントはあったが、保安部が擁するサイコメトリー能力者により、正体はおおむね把握できた。
彼らは土蜘蛛。大和朝廷に「まつろわぬもの」と呼ばれた土豪である。その中には、異形と交わった血統があり、その末裔が今日まで生き残っていたのだ。
――連中、この名古屋で何か探しているらしい。
――何かって?
――それはわからんとさ。虫除けの札が手に入ったらやるから、それまで自分で気を付けろ。
宗司は土蜘蛛の能力について侑太にCアプリで尋ねる。
彼らは人間以上の寿命と身体能力、蜘蛛の怪人への変身能力を持つ。変身中は火球や雷電、毒や粘着糸を武器として戦う。
宗司は侑太に礼を言うと、自宅を出て異界に侵入した。
生活感のない名古屋のイミテーション。
その中を雑多な異形が徘徊する。ゾンビや死霊、ワイバーンにレプラコーンなど妖精、姑獲鳥や豆狸などの妖怪。
それらを宗司は心行くまで斬り、それに飽きると拳打や投げを駆使して倒していく。ゴブリンの頭部を掌底で砕き、トロールの棍棒を避けて伸びきった腕を取って投げる。
返り血の心配はしなくていい。神魔は死体を残さず、消滅と同時に返り血や血痕も消えるのだ。
宗司は現世に戻り、一息つくと<シユウ>を展開。風と水を操る能力を応用し、視界の遥か外の状況を読み取る。
(貞夫!――これは、戦っているのか!?)
宗司は貞夫が戦闘を行っている事を察知。
その気配が唐突に薄くなった。異界に渡ったのだろう。宗司は侑太や武志に貞夫が陥っているらしい窮状を伝えると、救援に向かった。
貞夫の方だが、宗司が感知した通り戦闘を行っていた。
小用で外出したところを、奇妙な少女に話しかけられたのだが、危うく拉致されそうになったのだ。
発火能力と<フェニックス>を駆使して応戦するも、少女とその仲間たちは熱に強いらしい。
「――誰か来る」
「え?」
奇妙な少女は接近する宗司に気づくや、いち早く離脱を試みたが宗司の到着が早かった。
宙に身を躍らせたところへ、不可視の壁が叩きつけられたような衝撃に襲われ、少女は路面に墜落。
宗司は貞夫に加勢し、蜘蛛の怪人に氣を打ち込む。多腕の怪人は文字通り手数が多く、距離をとると雷や炎によって貞夫達を攻撃してくる。
しかし、侑太や武志が駆け付ける頃には、戦闘は終了していた。
「おい、なんでもう終わってんだよ!俺の分は!?」
「悪いな、それはまた今度」
「糞が!貸し一つだからな、ソーさん!」
弱々しい呼吸をしながら転がる土蜘蛛達。半分ほどは生きていた為、その場で拘束して侑太が保安部に通報。
「ねぇ、藤堂君…女の子がいないんだけど……」
「逃げられたな」
数時間後、少女――油津姫は土蜘蛛の古老から叱責を受けていた。
市内の異能者を捕らえ損ねた挙句、仲間を置いて逃げたからだ。油津姫の兄、葛鹿彦の執り成しで、ペナルティは数日の謹慎で済んだ。
「今時はすぐにスマホで連絡がつくからな、爺さんたちはその辺がわからないんだよ」
「話しかけないで」
「…はいはい。俺は研究所の生き残りの子孫を訪ねてくるから、収穫があったらお前にも知らせるよ」
葛鹿彦は叱責の場から解放された油津姫の隣を離れ、アジトを出ていった。
貞夫への襲撃から数日経った頃、都市伝説研究会は栄駅に降りていた。
日本兵が出没する、という噂があるのだ。走る地下鉄車両の窓から見かけるだけなのだが、結構話題になっている。
「でも、どうやって行くの?駅員さん……ちょっと!?」
貞夫が逡巡しているうちに、侑太、頼子、斗真はさっさと線路に降りてしまった。
駅員を呼びに行く利用客の姿を視界の端にとらえた宗司は貞夫を促し、研究会一行は線路奥の闇に消える。
いつ電車が通るかと怯えながら、貞夫は先を行く侑太達の背中を追った。しばらく進むと、侑太が足を止める。
「これだな」
「これ、…トンネル?」
「異界、だよね?誰も気づかなったの?」
侑太を先頭に、5人は奥に踏み込んだ。
ぐずぐずしていると駅員が追ってくる。湿った臭いや、侑太達の懐中電灯に照らされる床や壁の状態は、半世紀は人目に触れていないはずだと貞夫に思わせた。
地獄に通じているようなトンネルの中でも、案の定神魔が現れた。いずれも低級な死霊、幽鬼だ。
「こいつらが外に出た、って事か?」
「いや、日本兵の姿が無い。奥まで行こう」
幸い、侑太の祓いの術は効く。
宗司の剣術や貞夫のパイロキネシスなど、攻撃力は十分。10分ほど進むとトンネルが終わり、開けた場所に出た。
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